本研究課題では、PICsomeを用いたクラウディング型ナノコンパートメントの開発を目指して、主に①クラウディング剤の封入条件の検討、②酵素活性の定量、に取り組んだ。平成25年度に確立した材料合成法を基盤として、26年度は、以下のような成果を上げた。 ①に関連して、PICsomeに酵素とクラウディング剤を封入する手法を検討した。まず、β-galactosidaseとdiamineoxidaseを用いて低侵襲な酵素封入条件を検討し、特に、渦流撹拌終了直前に酵素を加えることで酵素失活を防ぎつつPICsomeへ封入が可能であることを見出した。続いて、同様の手法をポリエチレングリコールやデキストラン存在下で適用した結果、デキストランと酵素の同時封入が可能であることを見出した。 ②に関連して、酵素封入PICsomeの種々の保存条件における活性変化を評価した。基質としてo-Nitrophenyl-β-D-galactopyranosideを用いて反応速度論解析を行い、所定の処理後のKm、及びkcatを算出した。まず、酵素の単独封入サンプルを用いた評価から、封入そのものによる活性の上昇などは見られなかったものの、37 °Cで24時間保存したサンプルについて、顕著な活性低下抑制効果が示された。これは、酵素濃度がPICsome内では一定に保たれ、希釈されないコンパートメント化の効果によると考えられた。次に、デキストランを酵素と同時封入させた条件で評価を行ったところ、37 °Cでの安定性向上のみならず、-20 °Cで24時間保存した場合にも活性低下を抑制可能であることを見出した。これは、PICsome内部で凍結が起こりにくいことが原因と考えられた。このように、PICsome内に酵素を孤立させ、さらにクラウンディング剤のような親水的で非特異吸着しにくい高分子を共存させることで、PICsome型酵素ナノリアクターの有用性をさらに高めることができた。
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