本研究の目的は、生体における酸化還元(レドックス)制御を分子レベルで明らかにするために、生体深部における酸化還元状態をセンシング可能な革新的な核磁気共鳴プローブ分子を開発することである。生体内における酸化還元反応は、発生、分化、健康、疾病、老化などに重要な役割を果たしている。この生体における酸化還元状態を分子レベルで解析することができれば、未知の部分が多い生物個体での酸化還元が関与する疾患・生理機能の解明へと繋がることが期待できる。 革新的な核磁気共鳴プローブの分子の開発に向けて、核磁気共鳴の感度を劇的に向上可能な核偏極技術を用いるプローブ分子を開発する事にした。しかし、一般に核偏極によって得られる高感度化した状態(超偏極状態)は、短時間であり生体解析へ適用する事は困難である。そこで前年度(平成25年度)では、高感度化した時間(超偏極寿命)を長くする事ができる構造の探索を行ない、15N核を含む構造において、いくつか有力な候補構造が得られた。得られた候補構造をもとにしたプローブ分子候補の設計・合成にも成功した。平成26年度では、得られた候補構造をもとに、実際に核偏極実験を行なった。その結果、分子プローブの核偏極が可能である事、核偏極状態の長時間の維持が可能である事を確認できた。以上の結果から生体におけるレドックスを解析する分子プローブの可能性を示す事ができた。また、さらに核磁気共鳴センシングにおける観測核と、高感度化した核磁気共鳴シグナルを維持する核とを分けた分子プローブの設計にも取り組んだ。長い超偏極寿命をもつ15N核と、対象をセンシングする核を分ける事で、大きな化学シフト変化でセンシング可能な分子プローブが期待できる。上記のような設計戦略への19F核の適用可能性も見いだした。
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