MPIase (membrane protein integrase)は大腸菌内膜から単離された糖脂質で、膜タンパク質が膜挿入する際に必須であると考えられている。大腸菌由来リン脂質だけから調製したリポソームでは、疎水性ペプチドは自発的に膜挿入するが、生理的濃度のジアシルグリセロール(DAG)が存在すると、自発的膜挿入が阻害される。ここにMPIaseを加えると、濃度依存的に膜挿入が復活する。糖鎖部が基質となるタンパク質と相互作用することを見出しているが、脂質部の役割が不明であった。我々は、MPIaseが膜の流動性を変化させると想定し、重水素標識した膜脂質の運動性を評価した。リポソームの重水素固体NMRはPake-Doubletと呼ばれる形状を示し、その四極子分裂幅は運動性が大きくなるほど小さな値を示すことが知られている。我々は昨年度、リポソームにDAGを加えると膜の運動性が低下し、MPIaseを加えることでその値が元に戻ることを見出している。本年度はホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルグリセロール(PG)、DAG の運動性の温度依存について調べた。各々の膜脂質の四極子分裂幅を測定したところ、PEはいずれの温度(10-40℃)においてもMPIase添加により元の運動性を回復するのに対し、PGは温度が低い場合には回復が見られないことが分かった。PEとPGの挙動の違いはMPIaseとの相互作用に差がある可能性を示唆する。その原因として、PEの正電荷とMPIaseの負電荷の相互作用やPEとPGの頭部の大きさの違いが考えられる。これを検証するため、MPIaseの部分構造を合成し、各脂質との相互作用を検討を進めている。
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