研究課題/領域番号 |
25620142
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
太田 和親 信州大学, 総合工学系研究科, 教授 (70160497)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / ニッケルナノ粒子 / ポリスチレン / マイクロ波加熱 |
研究概要 |
前回、我々はポリスチレン(PS)をニッケルナノ粒子(平均直径100 nm)といっしょに窒素気流下、マイクロ波加熱することにより、安価に極短時間で多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を合成できることを報告した。カーボンナノチューブ(CNT)を合成するには、今までアーク放電法、レーザー蒸発法や化学的気相成長法(CVD法)などが知られているが、いずれも高エネルギーと高価な装置が必要であった。また、いずれの方法においても、CNTを合成するには、Fe, Co, Ni などの触媒金属が必要であり、生成するCNTの直径は、触媒金属ナノ粒子の直径に依存していると言われて来たが、これを系統的に研究した例はほとんどなかった。しかしながら、近年、長さの違う長鎖アルキル基を置換したNi[(ジアルキルアミノ)(ジホルメート)](Ni[(RNH2)2(HCOO)2])錯体のオクタノール溶媒を、マイクロ波加熱することにより、所望の直径のNiナノ粒子を作成できることが報告された。そこで本研究では、このNiナノ粒子(直径10, 20, 50, 90 nm)を入手し、これを用いてMWCNTをマイクロ波加熱により合成し、Niナノ粒子の直径が生成するMWCNTの直径に及ぼす影響を系統的に研究した。石英試験管の中に粒状PSとNiナノ粒子を入れ、「反応温度800oCと反応時間10分」と「反応温度700oCと反応時間15分」の二つの条件で、Niナノ粒子の直径を90→50→20→10 nmと変化させて、CNTを合成した。一連の透過型電子顕微鏡観察より、全ての条件でMWCNTが合成されることが分かった。さらに、触媒金属ナノ粒子径が1 nm小さくなるとMWCNTの外径も約1 nm 小さくなることが、触媒金属ナノ粒子径の非常に幅広い範囲(1~90nm)で成り立つことを、世界で初めて確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、2011年度の研究に用いたNiナノ粒子は海外製で、粒径のばらつきが大きいが平均粒度 100nmのものを用いた。このような平均直径100nmのNiナノ粒子を用いると、得られたカーボンナノチューブ(CNT)もほぼ直径100nmで多層カーボンナノチューブ(MWCNT)であった。したがって、我々は触媒として用いるNiナノ粒子の直径を小さくすればそれにつれて、合成されるCNTの直径も小さくなるのではないかと考えるようになった。そこで本年度、国内のメーカーから直径の異なるNiナノ粒子を入手し、直径の細いCNTの合成を行うことにした。 この国内メーカーからは、極めて直径のそろった90nm, 50nm, 20nm,10nmのNiナノ粒子が入手できた。石英試験管の中に粒状ポリスチレン(PS)とNiナノ粒子を入れ、「反応温度800oCと反応時間10分」と「反応温度700oCと反応時間15分」の二つの条件で、Niナノ粒子の直径を90→50→20→10 nmと変化させて、CNTを合成した。一連の透過型電子顕微鏡観察より、全ての条件でMWCNTが合成されることが分かった。さらに、触媒金属ナノ粒子径が1 nm小さくなるとMWCNTの外径も約1 nm 小さくなることが、触媒金属ナノ粒子径の非常に幅広い範囲(1~90nm)で成り立つことを、世界で初めて確立した。これらの成果は、Journal of Materials Chemistry A, 2, 2773-2780(2014)に発表した。 以上のように、当初の計画を達成できている。
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今後の研究の推進方策 |
Ni内包カーボンナノチューブ(Ni-CNT)の中のNi金属はカーボンナノチューブの殻に守られ酸塩基に侵されず化学的に安定であるため、外側のカーボンナノチューブを混酸により処理しても、内部のニッケル金属は溶けずに磁石にくっつくという性質は保たれる。したがって、酸点(COOH基やSO3H基)を導入したNi-CNT-(COOH)nを、今後合成する。従来、酸点をつけるには、混酸を用いる方法があるが、濃硫酸と発煙硝酸を用いるという過激な方法であり、環境面からあまり推奨されない。そこで、その他の簡便な方法を試す予定である。具体的には過硫酸カリウムを用いる方法、水中プラズマを用いる方法などを試す。
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