平成26年度までの研究成果において、ジクロロエタンを用いるソックスレー抽出とHPLC-蛍光検出器(FLD)を用いて、火山降灰中に含まれる多環芳香族炭化水素(PAH)を分析する方法を確立した。試料中へのPAHスパイク実験によって、降灰中に含まれるレベルのPAH類を満足できる回収率(>75%)で回収できることを確認した。 桜島が噴火したときに噴出した火山灰を降下直後に採取し、噴火時期および採取場所の異なる5種の降灰試料について、上述の手法によりPAH分析を行った。fluoranthene、pyrene、benzo[a]pyreneなどの4-6環PAH10種の合計濃度が、1.6-5.1 ng/gであった。降灰試料をふるい法により分級し、各画分のPAH濃度を測定すると、微粒分ほどPAH濃度が高かった。降下後数ヶ月間建物屋上に放置された降灰についてもPAH分析を行ったが、合計PAH濃度が4 ng/g程度であり、降下直後の場合と大きな違いはなかった。桜島の噴煙は噴火時に2-3 km上空まで到達しており、火山灰は上昇および降下時に、自由対流圏を含む大気中のエアロゾル粒子を捕集した結果、PAHを吸着したと考えられる。 降灰試料の元素分析も行ったが、採取時期および場所に関わらず。主要元素および微量元素(水銀以外)濃度はほぼ一定であった。しかしながら、降灰中の水銀濃度は大きく異なり、降灰量の多い場合に濃度が低くなる傾向があった。また、水銀需要が現在よりもはるかに大きかった1980年代に採取した降灰の水銀濃度はかなり高かった。 火山降灰は、自由対流圏を含む大気中のエアロゾル捕集材として機能し、大気汚染物質(PAH、水銀)を吸着していることが明かとなり、エアロゾル成分の年次変動を反映することがわかった。しかしながら、これらの成分において、越境汚染の割合を特定するまでには至らなかった。
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