研究課題
安価な中心金属を有する金属錯体を触媒とした犠牲剤および光増感剤からなる反応システムにおいて、水から水素を製造する可視光を用いた光還元反応について検討を進めてきた。触媒としては、二電子移動が可能な酸化還元活性なノンイノセントな配位子を有するニッケル錯体だけでなく、その合成前駆体であり、異性体でもあるシッフ塩基錯体についても検討し、さらに側鎖上の置換基の効果についても検討した。その結果、これまでの研究により、最も異性化しやすいノンイノセントな配位子を有する錯体が最も高い触媒活性を示し、むしろ異性化しにくい錯体の活性は低いことを明らかにした。この原因を解明するため、最終年度にあたる昨年度は、詳細な電気化学的測定、新たな還元体の合成、分子軌道計算などから、その反応機構について検討した。その結果、2電子還元後に初めて錯体触媒と水素原子が相互作用し、その後、錯体を介して水素原子同士が結合を生成して水素ガスを発生することがわかった。このことから、最も高い活性を示した錯体は置換基としてメチル基を有していることから、その電子供与性が水素原子との相互作用に有利に働いた結果、高い触媒活性を示したと結論付けた。一方、水の酸化による酸素製造は、これまでルテニウム錯体を触媒として使用してきたが、昨年度は新たにイリジウム錯体について検討を進め、水の酸化反応の触媒となることを明らかにした。その錯体はクマリンを配位子とする錯体であり、塩素架橋二核錯体と塩素原子の代わりに水が配位した単核錯体である。しかし、それらはほぼ同様な酸素発生量を示し、加えていずれの触媒反応も同じくらいの誘導期間を要したことから、二核錯体と単核錯体はいずれも触媒前駆体であり、触媒活性種は同一物であると推定した。
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