研究課題/領域番号 |
25620156
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
芥川 智行 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (60271631)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 強誘電体 / カラムナー液晶 / オルガノゲル / アルキルアミド / ベンゼン誘導体 / 誘電率 / 水素結合 |
研究概要 |
ディスコチックカラムナー液晶性を示すアルキルアミドベンゼン誘導体のカラム内の分子間水素結合に着目し、カラム内の分子間アミド結合の反転を利用した有機強誘電体固体薄膜を作製する事を研究目的とした。分極反転を伴う分子間アミド結合の反転は、強誘電物性発現の起源となる事から、多様な置換位置やアルキル鎖数を有するベンゼン誘導体に関する検討を実施した。研究スタート時に、ナノファイバーやフラクタル構造を出現させる、1, 2, 4, 5-置換ベンゼン誘導体から研究を実施した。ベンゼン環に置換するアルキルアミド基の数とその対称性に着目し、それが分子の自己組織化と誘電物性にどのような影響を与えるかを検討した。五種類の誘導体2BC~6BC(最初の数字はアルキル鎖の本数で、アルキルアミド鎖は全て-CONHC14H29に固定)を合成し、その分子集合体構造と誘電物性についての比較検討を試みた。最初に、それぞれ化合物のオルガノゲル形成についての検討から、分子の自己組織化に関する評価を実施した。4BC~6BCではアルキルアミド側鎖の増加により分子間水素結合が強化され、非極性溶媒中で容易にファイバー状の分子集合体を形成し、オルガノゲルや高粘性溶液を形成する事が示された。化合物3BC~6BCのDSCおよびPXRD測定から、いずれの化合物も299~331 Kの温度域で固体から液晶相に転移する事が確認された。液晶相は、いずれもColh相であった。また、化合物2BC~6BCの薄膜状態におけるP-E曲線の測定では、2BC、3BCおよび5BCで抗電場を有するヒステリシスループが出現した。また、4BCと6BCではヒステリシスが出現しないことから、強誘電性の発現にはアルキルアミド鎖の設計が重要であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ディスコチック液晶性と分子運動の観点から、芳香族アルキルアミド誘導体が示す分子間水素結合に起因する特徴的な分子集合体構造の形成や強誘電性の発現などの興味深い構造-物性相関に着目した研究を実施した。特に、trialkylbenzene-1, 3, 5-tricarboxamide (TBA)は、分子間水素結合、π-π相互作用、アルキル鎖間の疎水性相互作用が共存する事で、らせんナノファイバーを形成する事がすでに報告され、TBA結晶は加熱により液晶相であるディスコティックヘキサゴナルカラムナー相 ( Colh )へと転移し、TBAが形成するカラムナー構造内のアミド基の分子間水素結合の反転に伴う分極反転に由来した強誘電性が知られていた。多くの研究者が上記のベンゼンの3置換体を用いた研究を実施する中、系統的にほぼ全ての誘導体の構造-物性相関を評価した点は、高く評価できる。分子性材料の物性を制御し良質な薄膜構造を実現するには、側鎖の数や分子対称性の変化が分子集合体構造や物性に与える影響について詳細に評価する必要がある。一年間で五種類の誘導体2BC~6BC(最初の数字はアルキル鎖の本数で、アルキルアミド鎖は全て-CONHC14H29に固定)を合成し、その熱物性と誘電応答を評価できたのは大きな研究成果であり、予想以上の速度で研究が推進している。また、研究段階でこれらの誘導体が高いオルガノゲル形成能を有していることが判明し、さらに基板上で高度に組織化したナノファイバーネットワークナノ構造を形成する事が判明し、分子設計からその制御も可能であった。以上に示されるように、液晶性、薄膜化、強誘電性、ナノネットワーク構造、オルガノゲルなど多彩なキーワードを含む幅広い研究へと発展を遂げている点は高く評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度が、本研究の実施最終年度となることから、これまでの蓄積されたデータを総括し、分子設計と分子集合体中の分子運動や物性応答の観点から研究総括を実施する。誘導体2BC~6BCのディスコチック液晶状態における電場-分極ヒステリシス測定から、2BC, 3BCおよび5BCが強誘電体に特徴的なヒステリシスループを示すことが判明している。強誘電性の起源は、ベンゼン間のパイスタックとアミド基による分子間水素結合の形成が重要であり、カラム内におけるアミド基の反転に伴う分極反転が強誘電性を実現している。従って、アルキルアミドの期の反転に対して立体的な反発が大きくなる4BCと6BCで強誘電性が出現しない結果となった。一方、5BCでは隣接するアルキルアミド基が存在するにもかかわらず強誘電体ヒステリシスを示した。以上の結果を、アルキルアミド基の回転に伴うポテンシャルエネルギー計算からそのメカニズムを検討する。また、オルガノゲルやナノファイバーネットワークの形成に関しても、詳細に薄膜化条件を検討する。3BCや5BCのナノファイバーネットワーク構造は、ナノスケールの強誘電体応答を示す可能性がある。その測定には、バルクシステムを使用できないことから、原子間力顕微鏡を用いたナノスケールの強誘電体物性評価システムに関する検討を試みる。現在、点接触イメージング原子間力顕微鏡を研究室で有していることから、本システムと電場-分極測定が可能な強誘電体テスターを接続し誘電物性の評価を試みる。また、バルク物性に関しては分子の自己組織化能とそこから発現する強誘電体物性に関してまとめる事で、研究成果発表を行う。
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