研究概要 |
平成25年度は、各種フルオロアルケン類の環化反応を利用して多環式芳香族炭化水素(PAH)およびそのフッ素置換体(F-PAH)を位置選択的に合成する手法を開発した。 【1,1-ジフルオロアルケンのドミノ環化によるPAH合成】 分子内に二つのアリール基を有する1,1-ジフルオロアルケンに超強酸を作用させ、そのドミノFriedel-Crafts型環化により種々のフッ素無置換PAHを合成した。出発物質となる1,1-ジフルオロアルケンは、同種または異種の二つのメチルアレーンの炭素鎖伸長により調製した。本手法は、二つのメチルアレーンを適宜組み合わせて所望のPAHに対応する1,1-ジフルオロアルケンを自在に調製し、その位置選択的環化によりPAHを得る方法であり、その高い自由度を活かして様々なPAHの合成を実現した。 【1,1-ジフルオロアレンのドミノ環化/環拡大によるF-PAH合成】 アリール基とシクロペンテン部位を有する1,1-ジフルオロアレンに触媒量の臭化インジウム(III)を作用させ、連続的な末端アレン炭素上でのフッ素置換反応(環化)と環拡大反応により、種々のF-フェナセンを合成した。また、臭素化剤やヨウ素化剤存在下で反応を行うことにより、それぞれ臭素置換基やヨウ素置換基を有するF-フェナセンを合成できることも明らかとした。1,1-ジフルオロアレンは種々のカルボニル化合物を出発物質として、申請者等が開発したジフルオロビニリデン化により調製した。カルボニル化合物が種々の方法で入手可能であることを考えると、本反応はF-PAHのための優れた合成法であり、その利点を活かして種々のF-PAHの合成を実現した。
|
今後の研究の推進方策 |
先に述べたように平成25年度は、1,1-ジフルオロアルケンのドミノ環化によるフッ素無置換PAHと、1,1-ジフルオロアレンのドミノ環化/環拡大によるフッ素置換PAH(F-PAH)の合成法開発を行った。 平成26年度はまずこれらの反応を利用して、さらに多くのPAHおよびF-PAHを合成する。これとともに、新しい合成手法の拡充も目指す。例えば、分子内に二つのアリール基を有する2-トリフルオロメチル-1-アルケンに、ルイス酸を作用させる。ルイス酸によるフッ化物イオンの引き抜きと、アリール基による分子内SN2'型反応が進行すれば、系内で1,1-ジフルオロアルケンが生成する。この1,1-ジフルオロアルケンがそのビニル炭素上でフッ素置換反応を起こせば、芳香環が直線状に連結したF-PAHあるいは置換基を有するPAHを合成できる。また、1,1-ジフルオロアルケンに遷移金属錯体を作用させる。申請者は、π配位により電子密度が低下したジフルオロアルケン部位で、分子内芳香環による単発の環化反応が進行するとの知見を得ており、これによりフッ素置換した芳香族化合物(F-PAH)を合成する。 さらに、これらの手法で合成したPAHおよびFーPAHのπ錯体形成にも着手する。得られた錯体は、X線結晶構造解析によりそのパッキング様式を明らかとするほか、最も重要な半導体特性の一つである移動度測定も行い、新規半導体材料としての利用法を探索する。
|