イオン液体(融点が100 °C以下の塩)開発において、一般的に分子量が増加すると融点も上昇する傾向がある。一方、我々はこれまでにPOSSと呼ばれるシリカの立方体構造を有する分子を複数電荷アニオンとし、各頂点にイオン対を配置すると、それらの融点が低下するのと同時に、熱分解温度が上昇することを見出した。その機構として、融点降下はPOSS核によりイオン対間の相互作用が低下したためであり、分解温度上昇はイオン対が液体状態であっても、規則的に配置させられていることを示唆する結果を得た。さらに、イオン性液晶を形成させることに成功し、特に、このPOSSを用いたイオン性液晶は等方相転移点が分解温度以上にあるという非常に熱的に安定な液晶状態を形成することが分かった。本研究では、これらの知見に基づき、まず立体核がイオン液体の熱物性に及ぼす影響についての一般性について検証する。さらに、応用として汎用性イオン液体の熱物性向上のためのフィラー開発、液晶としての温度領域の広いイオン性液晶、発光色素の規則的配置について研究を展開した。具体的には、POSSやアダマンタン等を核としイオン対を集積した分子を作成し、イオン液体としての熱物性評価を行う。また、フィラーとしての効果やイオン性液晶を形成させ熱分解温度の向上を目指すとともに、色素の配列による光学特性の変化についてナノ構造との相関を調べた。 まず、オクタカルボキシPOSSをフィラーとして種々の塩中に添加し、物性変化を調べた。その結果、オクタカルボキシPOSS添加により、汎用イオン液体の融点の低下がみられた。一方、POSSを含まない側鎖のみの化合物では、融点の低下はみられなかった。この結果は、オクタカルボキシPOSS添加により、定義上イオン液体と呼べない塩でも液体化できたことを示している。
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