研究実績の概要 |
近赤外に広帯域発光を示す3d遷移金属イオン含有ガラスをいくつかの異なる組成において溶融法により作製し,熱処理により,Cr4+イオンを含有した結晶化ガラスを作製した.Cr4+イオンを安定に固溶し得る結晶化ガラスの組成探索と母ガラス作製,熱処理前後の基礎光物性評価を行った.Zn2SiO4, Mg2SiO4, Li2ZnSiO4結晶はそれぞれZnO4やSiO4の四面体サイトを有するために,クロムはd2電子配置=4価の状態で安定に固溶する.ターゲット結晶の構成成分を含み,かつ適度な熱的安定性が期待されるケイ酸塩組成のガラスを溶融法で作製した.得られたガラスは何種類かの温度で熱処理し,析出結晶とその粒径をXRD等により確認した.各試料は光物性測定に供し,発光スペクトル,蛍光寿命,量子収率を評価した. X線回折により,目的組成のナノ結晶が析出していることを確認した.いずれの試料も熱処理結晶化後はCr4+に基づく1.1~1.5μmの波長領域に広帯域発光を示した.Mg2SiO4試料のみ,Cr3+イオンに基づく,0.9μm付近の発光を示した.他の2試料に比べ,Li2ZnSiO4析出結晶化ガラス試料は長い蛍光寿命と高い量子効率を示した.Tanabe-Suganoダイアグラムより検討した結果,同試料は結晶場強度が強く,1E準位から3A基底状態へのスピン禁制遷移が支配的であったのに対し,Zn2SiO4結晶析出試料は,結晶場強度が弱く,長波長発光を示すが,3重項間のスピン許容遷移が優勢になるため,蛍光寿命が短かったと考察された.
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