骨の主成分として知られ、軽元素のみから構成される「B型炭酸アパタイト」(BCA; [Ca10-xNa2x/3][(PO4)6-x(CO3)x][(H2O)x(OH)2-x/3])は、水酸アパタイト(HA;Ca10(PO4)6(OH)2)のリン酸イオンの一部が炭酸イオンに置き換わった化合物である。最近我々は、炭酸組成xを1.0(重量含有量約6%)超まで増やしたBCAが、酸化物イオンの移動に起因する10-5~10-3 Scm-1レベル(500~800 ºC)のイオン伝導を示すことを見出した。これは、生体物質を起源とする、希少元素や有害元素を一切含まない新型固体電解質の提供につながる重要な発見である。そこで本研究では、固体酸化物型燃料電池への実装に耐えるBCA系固体電解質の開発を目的に、昨年度実施した脱炭酸処理が導電特性および結晶安定性に及ぼす影響に関する検討結果に加えて、アパタイト構造の対称性を向上させる効果を有するF-をドーパントとしたBCA系(以降、F-BCA)および4価カチオンでありながら水酸アパタイトのCa2+サイトに導入することが可能であることが報告されているTi4+をドーパントとしたBCA系(以降、T-BCA)を主な対象として、各ドーパントがBCAの結晶構造および酸化物イオン伝導特性(400~850℃)に与える影響を調査した。 結果、F-BCA系において600℃以上の温度領域においてYSZ系電解質を凌駕する導電率を示す電解質の作製に成功した。また、BCAへのF-ドープが導電率の向上に寄与する半面、活性化エネルギーを増大させる効果を有すること、BCAへのTi4+ドープが、特に炭酸組成x>1の領域において活性化エネルギーの減少に寄与するものの、ドープ量が過剰であると結晶格子の不安定化につながるとの知見を得た。
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