研究概要 |
本研究は、マグネシウムのハロゲン化物と酸化物からなるナノ複合体を形成し、ヘテロ界面近傍の空間電荷層をイオン伝導経路として活用する、Mg2+伝導性ガラス電解質の作製を目的とした。ハロゲン化物としては、クーロン相互作用が小さいと考えられるMgI2に着目した。 グローブボックス(GB)中に備えられた真空蒸着装置を用いて、櫛形電極上にMgI2薄膜を蒸着してイオン伝導率を計測した結果、室温で4.7x10-9 S cm-1の導電率が観測された。X線回折法を用いた評価から、作製した薄膜がアモルファスであることがわかった。薄膜組成を調べた結果、膜中からMg,O,Iが検出され、これらが高分散していることがわかった。GBの露点は-80℃以下に保ち、O2濃度が異なるアルゴンガスを用いて同様の成膜・導電率計測を行った。その結果、O2濃度が5ppm程度のガスを用いると導電率が検出されなくなるという結果が得られた。標準生成自由エネルギーの計算では、広い温度範囲においてMgOの方がMgI2よりも安定である。薄膜作製過程で、GB中に残存する酸素が膜中に取り込まれ、Oを含有するナノ複合体が形成されたと考えられる。Mg/アモルファスMg-O-I/Ptの積層体を形成してPt上にMgを析出させる電流を流した後にイオン伝導率を計測した結果、ノンブロッキング電極の挙動が認められた。従って、伝導種は主にマグネシウムイオンであると考えられる。 一方、パルスレーザーアブレーション法を用いて同上の薄膜の精密合成を検討したが、膜中からのヨウ素欠損が著しく生じた。ヨウ素を過剰に加えたターゲットを作製して組成補償を検討したが、高真空中ではヨウ素が昇華するという課題が生じた。今後は、ハロゲン雰囲気中で成膜するなどの改善が必要と考えられる。
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