研究課題/領域番号 |
25620195
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
坂口 裕樹 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00202086)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | リチウム二次電池 / 計算化学 / ケイ素系合金 |
研究概要 |
電気自動車に搭載する次世代リチウム二次電池にはエネルギー密度の飛躍的向上が要求されており,現行の黒鉛負極に替わる次世代負極材料が切望されている.その筆頭候補として飛躍的に高い理論容量を有するケイ素がある.しかしながら,SiはLiを吸蔵-放出する際にその体積が激しく変化し,この際に発生する応力がSi活物質層中にひずみを蓄積させ,これによって充放電を繰り返すうちに活物質層が著しく崩壊してしまうという問題がある.そこで、Liを可逆的に吸蔵-放出し,かつ充放電サイクルを繰り返してもその性能が劣化しないようなLi貯蔵合金の開発が求められている.しかしながら,材料の合成と評価を繰り返すような実験的試行錯誤は多元系合金材料に対しては非現実的である.そこで,当該研究課題では計算化学に基づく理論解析を新たに導入し,種々のケイ素系合金・化合物の材料探索を行う.当該年度は,計算手法の確立のためSi単体に対して微量のリンを不純物として添加した活物質を対象としてその自由エネルギーを求めた.さらに,計算結果と実験結果を照らし合わせ,計算手法の妥当性についても調査した. 微量のPを添加したSiを用いた電極は,充放電初期において1600 mAh g-1 程度の可逆容量を示した.これは純粋なSiの電極の容量の約65%にとどまる値ではあるが,充放電サイクルを繰り返してもP添加Si電極の容量減衰が大幅に低減されることがわかった.Pを添加したSiに対してLiの挿入前後の自由エネルギーを第一原理計算プログラムにより計算し,その差からLiの挿入に要するエネルギーを求めた.その結果,純粋なSiに比べPを添加したSiでは0.2 eVほど高いLiの挿入エネルギーを示すことがわかった.したがって,Pの添加によりSiへのLi挿入がある程度抑制される効果があると示唆される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究では,従来法とは異なり導電助剤や結着剤などを使用せずに純粋な活物質のみを用いて電極を作製するガスデポジション法を採用している.このため,活物質本来の電気化学的性質を評価できる系となる.一方,第一原理計算は実験結果や経験則に依らずに様々な物理量や電子状態を導き出せる.したがって,ガスデポジション法と第一原理計算を組み合わせることで,非常に高い精度で計算結果と実験結果を対応させることが可能である.これまでPなどの不純物をSiに添加させ,その電気伝導性を向上させることで負極性能を改善できるという報告は幾つかなされてきた.一方,当該研究ではこのような効果に加え,SiがLiを吸蔵する割合をある程度低く抑えることで,Li吸蔵-放出時の体積変化を低減し,これがサイクル寿命の改善に効果があることを見出すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
革新的な高容量を有する次世代負極を開発するためには,従来の炭素系負極からSiを初めとする金属・合金系負極への転換が不可欠である.しかしながら,これらの活物質は充放電時に体積変化をともないサイクル安定性を低下させる.したがって,体積変化による電極崩壊を抑制できる別の活物質との複合化を検討する.その一例として,遷移金属のケイ化物(シリサイド)と単体Siとのコンポジット体の調製を行う.これまでに研究代表者は種々の遷移金属シリサイド/Siコンポジット電極の評価を行い,シリサイドの幾つかの性質がコンポジット電極の負極性能の向上に大きな効果があることを見出してきた.その性質の中には,シリサイドの熱力学的安定性やLiの拡散させやすさ等がある.したがって,シリサイドを対象とした第一原理計算手法によりこれらの性質を調査し,負極特性との関連を調べる予定である.また,得られた実験結果を理論計算にフィードバックさせ,さらに材料探索の効率と精度を高め,新しいケイ素系リチウム貯蔵性負極材料の創製にも挑戦したい.
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