研究課題/領域番号 |
25630008
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
神谷 庄司 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00204628)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | シリコン / 水素 / 疲労試験 / 分解せん断応力 / 結晶すべり |
研究実績の概要 |
前年度において、水素ガス環境による疲労寿命の劇的短縮を世界で初めて確認し、成果を論文に掲載(研究発表の項参照)したことを受け、本年度は応力状態の変化による寿命変化の評価と疲労過程における損傷の検出および観察に重点を置き、水素とシリコンの疲労との関連の解明へ向けて研究を遂行した。この結果、新たに次の二つの非常に重要な研究成果を得た。 1.結晶方位を変えることにより、疲労試験中にシリコンの結晶すべり面(111面)に負荷される引張応力とせん断応力との比が異なる試験片を準備し、引張応力を一定としてせん断応力を大きくした場合に、水素中および湿潤大気中双方での疲労寿命が有意に短くなることを確認した。この事実は、応力誘起の拡散により水素が凝集して高圧のボイドが発生することで損傷が発生する可能性を否定し、水素によりすべりが促進されることにより形成された欠陥が疲労寿命を低下させることを意味している。この結果は平成27年6月の国際会議で発表予定となっている。 2.透過顕微鏡による観察を予定した応力集中部分を予め十分に薄く設計し、疲労損傷が厚さ方向のどこに存在しても必ず検出できると考えられる形態の試験片を作製して、疲労破壊後の詳細な結晶欠陥解析を行った。この結果、不安定破壊をもたらしたと考えられるき裂の起点近傍に、き裂とは異なる場所から発生した結晶すべり領域が複数確認された。この事実は応力集中部の複数個所においてすべり(塑性)変形が予め発生し、その中で応力集中が卓越したものからき裂が初生し伝播したことを示唆している。 これら二つの新発見は、疲労機構として長らく疑われてきた表面酸化膜の引張による腐食割れの仮説を完全に否定するものでもあり、世界で初めてシリコンの疲労機構の正しい認識を証拠とともに問うことを可能とする、トップレベルを越えたトップの成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先の研究成果の項に記したとおり、当初計画した目的の根幹、すなわちシリコンの疲労過程に水素が関与することの検証、についてはすでにほぼ達成している。特に結晶のすべりによる損傷の形成が疲労破壊を引き起こす新仮説について、分解せん断応力の増大による疲労寿命低下の現象論と、すべりの痕跡そのものという証拠の発見との、双極からの検証に成功するという世界トップの成果を上げた点は、当初予期した以上の進捗と考えることができる。 一方、き裂の起点以外でのすべりの発見という成果に続き、当初計画した電子的損傷検出を援用した疲労過程の観察、すなわち破断後の結果のみではなく損傷が発生し蓄積する過程を解明するという点においては、昨年度末における予期せぬ利用予定装置の故障という不測の事態もあって、まだ実現するに至っていない。この点については、次の今後の推進方策にも記す通り、故障により支出の機会を失った残予算を平成27年度に繰越して改めての観察を計画しており、水素関与の最終的結果のみならず、損傷の初期形態を含めた集積過程全体の解明が期待されている。 以上の点を踏まえ、本研究の進捗はおおむね計画通りと評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度末に観察を予定していながら故障により観察時間が十分に確保できなかった名古屋大学の透過電子顕微鏡は、本実績報告執筆の時点で既に復調している。そこで、電子線誘起電流を用いて疲労損傷の蓄積過程を観察・解析するために計画していた試験片を27年度に改めて作製して実験を行い、平成26年度に破壊後の形跡として観察することに成功した結晶のすべり変形に至る過程の解明を試みる。一方、本研究は平成26年度までに既に、それまで世界の共通認識と理解されていた定説を覆す画期的な発見を成し遂げており、これを広く喧伝するべく国際会議での発表を予定している。 先にも記した通り、故障により発生した未使用の観察料金を含む残予算を平成27年度に繰り越しており、この予算を上記平成27年度における活動に充当し、成果の総合的最大化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
先の、研究実績・現在までの達成度・今後の研究の推進方策、の各欄でも触れたように、疲労損傷の集積過程の観察を予定していた名古屋大学の超高圧電子顕微鏡において昨年度末に故障が発生して観察時間の確保が困難となったため、関連経費の支払いのために確保していた予算が執行不能となった。これに伴い、観察用の試験片製作およびそれを用いた実験と観察を次年度に延期せざるを得ず、残予算を繰越すに至った。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越した予算は、27年度の実験と観察および27年度に開催される国際会議において26年度までの成果を発表するための費用に充当するよう計画している。
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