ポリマー素材の力学機能の発現において,材料内部構造の果たす役割は重要と考えられているが,高分子材料の内部構造の変化を特定する実験的手法は多くない.先端的なポリマー素材の機能特性の把握や向上の観点から,材料劣化のメカニズムを高分子内部構造変化と関連づけて力学的見地から検討するとともに,機能変化の評価法を確立することは重要な課題である.本研究では,特に,ポリウレタン系形状記憶高分子(SMP)が熱力学的負荷下において機能特性を変化させるメカニズムを調べ,その機能特性変化を蛍光分光により評価する手法の有効性を検討した.
1. これまでに示していた,ポリウレタン系SMPのアニーリングに伴う寸法変化と形状記憶効果が同一の内部構造変化メカニズムである実験事実に基づいて,アニーリング条件の調節による形状記憶高分子の機能特性制御法を提案し,実験により検証することができた. 2. 繰返し熱力学的負荷を与えたポリウレタン系SMPの機能変化についてさらに調べ,共焦点レーザー顕微鏡を利用した蛍光分光により,機能変化に伴うSMP内部の構造変化を検出する手法について検討したところ,蛍光剤を変化させた供試材を用いた場合に同様の傾向が得られた.これにより,熱力学的負荷に伴う初期の内部構造変化を材料内部への蛍光剤浸透量により検出できることを示した. 3. 繊維強化ポリマーの静的負荷や疲労による劣化検出への蛍光浸透分光分析法の応用についても検討を行い,定量的には十分な実験結果は得られていないが,複合材料を構成する樹脂部への蛍光浸透の可能性が示唆された.
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