研究課題/領域番号 |
25630014
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中井 善一 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90155656)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 薄膜 / ナノ結晶材料 / 環境強度 / 疲労強度 |
研究実績の概要 |
ナノ結晶Ni合金電着薄膜は,極めて高強度であること,および紫外線フォトリソグラフィー法によって精密成形を行うことができることのために,マイクロマシン用材料として注目されている.一方,金属材料に関するこれまでの研究では,高強度材料は環境に敏感で,腐食環境中における強度は,大気中よりも大きく低下する場合の多いことが知られているが,ナノ結晶合金の環境強度については,ほとんど知られていない.特に,低次元材料の場合,環境と接する表面の体積に対する比率がバルク材と比べて極めて大きいために,環境助長破壊を生じやすいものと考えられる.そこで,本研究では,ナノ結晶Ni合金細線の環境強度を明らかし,ナノ結晶化がどの程度環境強度の向上に有効であるかを検証することを目的とした. 本研究では,まずナノ結晶Ni合金電着薄膜試験片作成法を開発し,その引張強度を調べた.その結果,電流密度が大きいほど,また,浴温度が高いほど同一時間で作成できる膜厚が大きいことが分かった.さらに,紫外線フォトリソグラフィー法によらなくても,試験片と同形状の電極を用いることによって試験片を作成できることを明らかにした. 製膜状態の試験片と,製膜後250℃・1時間の熱処理を施した試験片を比較すると,ヤング率,引張り強さは変化しなかったが,熱処理材のほうが引張り強さおよび破断伸びともに大きく低下した.一方,疲労強度に関しては,熱処理材の疲労限度が大きく上昇した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
薄膜の製作が可能になったこと,試験片の製作法が分かったこと,および,薄膜用疲労試験機を開発したことにより,研究は順調に進行している.なお,これまでの研究によって,電着膜の強度に光沢材が大きく関与している可能性が示唆された.これは,従来の研究では明らかにされていなかつたことである.従来は,熱処理によって残留応力が低減されるものと考えられていたが,実際には,加熱することにより材料中に含まれるポリマー状の光沢材が除去されることによる影響である可能性が高いという貴重な結果が得られた.このメカニズムを解明するために,本年度は時間を費やしたために,環境強度に関する実験は行っていない.一方,当初予定していなかった,疲労き裂伝ぱ試験を行うこともできた.これは,レーザー変位計を利用したサブミクロンの分解能でのき裂開口変位測定,およびコンプライアンスとき裂長さの関係の理論解析を行い,それを利用した疲労き裂伝ぱ試験プログラムを開発した成果である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,純ニッケル薄膜だけでなく,バルク材の強度特性を調べるとともに,さらなる高強度化をはかるためにリンを含んだ電着膜を作成し,その強度特性を調べる.また,本年度が最終年度であるため,当初の目的である環境強度についても研究を実施する. まず,平滑材の腐食環境中静荷重試験を実施する.この場合,3%食塩水中で,一定の応力を負荷し,負荷応力と破断時間の関係に及ぼす膜厚および結晶粒径の関係を明らかにする.また,通常の結晶粒径を有するNi箔およびNiバルク材についても同様の試験を実施し,ナノ結晶粒材との相違および類似点を明らかにする. ついで,大気中および3%食塩水中において,平滑材の片振り疲労試験を実施し,結晶粒径と疲労強度の関係を調べる.この場合も,通常の結晶粒径を有するNi箔およびNiバルク材についても同様の試験を実施し,ナノ結晶粒材との相違および類似点を明らかにする.さらに,時間的に可能であれば,腐食環境中における疲労き裂伝ぱ試験を実施する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度が最終年度であり,学会発表を多くする必要があるため.
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次年度使用額の使用計画 |
成果発表旅費として使用.
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