昨年度までに,ナノ結晶Ni合金電着薄膜試験片作成法を開発した.その結果,電流密度が大きいほど,また,浴温度が高いほど同一時間で作成できる膜厚が大きいことが分かった.さらに,紫外線フォトリソグラフィー法によらなくても,試験片と同形状の電極を用いることによって試験片を作成できることを明らかにした.成膜状態の試験片と,成膜後250℃・1時間の熱処理を施した試験片を比較すると,ヤング率,引張り強さは変化しなかったが,熱処理材のほうが引張り強さおよび破断伸びともに大きく低下した.一方,疲労強度に関しては,熱処理材の疲労限度が大きく上昇することを明らかにした. 平成27年度は,光沢材添加量を変えることにより,結晶粒径を変化させるとともに,EBSDによる結晶粒径測定を行い,Hall-Petchの関係を調べた.なお,無熱処理材では,電着時に導入されるひずみのためにEBSD分析はできなかったが,低温熱処理の場合,結晶粒径は変化しないものとして解析を進めた.さらに,作成したナノ結晶Ni合金のXRD分析を行い,光沢材の影響を調べた.その結果,作成された薄膜中に光沢材は含まれておらず,純度の高いニッケル薄膜が作成されていることが明らかになった.また,耐力,引張強さ,疲労限度と結晶粒径の間にはHall-Petchの関係が成立しているものの,その関係は数十μm以上の結晶粒材に対するものとは異なり,結晶粒径が小さくなるほど相違が大きくなっていた.その原因として,従来のように粒界を線として考えるのではなく領域として考える必要のあることが明らかとなった.この粒界領域は,結晶粒径に依存せずに一定値であるため,結晶粒径が小さくなるとその影響が顕著になるものと考えられる. さらに,コンプライアンス法でき裂長さを自動測定する自立薄膜の自動疲労き裂伝ぱ試験システムを開発し,データを取得することに成功した.
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