研究課題/領域番号 |
25630015
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
池野 順一 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10184441)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 有機透明導電性膜 / 超短パルスレーザ / 絶縁処理 / レーザ加工 |
研究概要 |
現在、スマートフォンなど透明タッチパネルにはITO導電性膜が使用されている。しかしITO膜にはレアメタルが使用されているため高価であり、安定供給への懸念も取り沙汰されている。そこで安価で安定供給可能な有機透明導電性膜が注目されているが、光透過性がITOよりも僅かに低いため、膜の有無によって配線パターンが視認されてしまうという難題を抱えている。本研究代表者は、これまでに基礎研究を行い、有機透明導電性膜にフェムト秒レーザを照射すると、ピンポイントで絶縁効果が発現することを発見している。本研究ではこの発見を基礎として絶縁性と視認性の両者を満足する新しいレーザ3次元配線技術の確立を目的とした。 初年度は装置及びシステムの構築と導電性の調査に重点をおいて研究活動を行った。 1.装置およびシステムの構築:1)レーザは既存の超短パルスレーザ(フェムト秒レーザλ=780nm、1kHz、200fs、3Wmax)を使用し、既存の金属顕微鏡にビームスプリッターなどを組み込み、レーザ加工ヘッドを構築した。焦点合わせと試料面観察のため既存のCCDカメラを設置した。2)2軸自動リニアステージに加工試料を固定し、2次元レーザ走査が可能な加工システムを構築した。制御ソフトは既存のプログラミングソフトで作成した。 2.装置性能評価 1)焦点サイズの測定、光軸調整を行うとともにレーザ出力測定を行った。2)レーザ走査軌跡、ステージ速度を確認し、ハード、ソフトの性能評価を行った。 3.導電性の調査 1)レーザ照射による絶縁効果を把握するため、レーザ出力と膜の電気抵抗の関係を調査し、膜にダメージ無く絶縁できることを見出した。2)対物レンズによる焦点サイズを小さくして3次元配線を使用とした場合、レーザ出力は小さくなければならず、最適照射条件の選定には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機導電性膜の視認性を劣化させずに回路形成できれば画期的である。そのためには膜を除去する従来法ではなく、光解離による構造上の変化による絶縁処理という新しい考え方が有効であることを装置を構築して基礎的に実証できたことは、大きな進展であると考えている。さらにレーザは微小焦点で絶縁処理できることがわかったため、薄膜の厚み内で焦点軌跡を連続的に移動させ配線を形成することに成功したが、2本の配線を薄膜内で立体交差させて立体配線を形成するまでには至らなかった。これができれば、本加工法でのみ可能な立体配線となり大きな意義を持つことになる。今後、検討すべき課題として認識できた点は良かったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
有機透明導電性膜のレーザ照射による構造変化について徹底して分析を行い、絶縁メカニズムを解明する。その後、2次元タッチパネルの作製の後、25年度には実現できなかった3次元配線の作製を試み、微視的導電特性を含めた評価を行う。このためにもメカニズムの解明が重要であると考えている。 まずレーザ照射した膜の構造変化を詳細に調査する。ここではX線光電子分光分析を行うことにする。これにより、共役二重結合の中の炭素と酸素の結合状態の変化が明らかになると期待される。この分析結果を基にして絶縁メカニズムを解明し、導電メカニズムについても解明を試みる。 次に有機透明導電性膜を塗布したPETシートを2枚用意し、XとYの直線回路を形成する。回路の微細領域について電気抵抗測定を行うため、実体顕微鏡とマニピュレーターで微小領域電気抵抗測定器を構築する。この測定後、絶縁効果の高い2枚のシート試料を重ね、2次元のタッチパネルを作製する。これに電池と接点数分の点灯部を接続して導通信号認識装置を構築し、タッチパネルとして使用でき得ることを実証する。 最後に、3次元配線の設計指針を得て配線作製を試みる。有機透明導電性膜の厚みは、一般的に300ミクロンであるため、焦点サイズ5ミクロンの対物レンズを使用すれば、絶縁効果を最小で5ミクロンにすることが可能になると考えられる。したがって、配線幅を同じ5ミクロンとすれば膜の厚み方向に30層の3次元配線が作製できることになる。新たな配線作製技術を実現できるよう努める。 このほかには、精密工学会、砥粒加工学会、日本機械学会にて成果発表を行うことを計画している。また、平成26年度の高校生を対象としたひらめきときめきサイエンス事業に採択されており、本研究成果を含めたレーザ加工の研究成果を科学技術啓蒙教育プログラムに取り入れることを計画している。
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