本年度はまずTHz-TDSを利用し,樹脂成形品の内部残留応力の非破壊・非接触な評価が可能かどうか検証した.具体的には,残留応力の異なる樹脂サンプルを複数作製し,その後THz-TDS実験によりTHz波の透過吸収の変化を検証し,従来法(穿孔法)と比較することで提案法の実現可能性を検証した.得られた結論は以下のとおりである.
プラスチック成形品の成形条件,結晶性などの違いによって,PPやPEEKでは4~5 THz帯域に特徴的な偏光依存性が現れた.結晶性の低いPSは成形条件の違いによるTHz偏光依存性は表れておらず,THz応答は結晶性の高い物質に大きく表れると考えられる.また,成形時の射出速度や保圧を変更することにより,THz偏光依存性が大きく表れることが示された.理由としては,成形条件における内部応力/配向の違いがTHz応答に現れたと考えられる. PEEK樹脂の結晶性の違いによるTHz応答差などから,樹脂内結晶配向とTHz応答は大きな相関があると考えられる.THz応答が配向,内部応力などいくつかの要素に起因する可能性が高いことが分かったが,それらを定量的に分離できれば,残留応力などの内部物性を精密に評価可能な技術が確立する.今後は,そのテーマの実現に向けて,研究を推し進めるべきである. 以上のように,本研究によって,これまで困難とされていた樹脂成形品の高精度・非侵襲な残留応力評価法の実現可能性の端緒をつかむことができた.しかしながら,THz応答の分離など様々な課題が残っており,提案法確立に向けてはもう少々時間がかかる.しかし,残留応力の精密な評価は,製品の信頼性・耐久性向上に向けた設計において必要不可欠であるため,大規模な市場を形成する樹脂成形産業において非常に大きな需要創成が期待できる.
|