研究課題/領域番号 |
25630020
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
國枝 正典 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90178012)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 放電加工 / 電解加工 / 透明体電極 / 可視化 / 高速度ビデオカメラ / 加工現象 / 加工液 / 気泡 |
研究実績の概要 |
導電性があり透明である単結晶SiC半導体を陰極に用い、高速度ビデオカメラを用いて加工間隙を観察し、加工現象の解明を進めた。 まず、放電加工に用いられる主な加工液である脱イオン水と放電加工油について、水の方が油よりも加工速度が大きい原因を考察した。その結果、水中の加工の方が気泡の発生体積が少ないことを明らかにした。また、放電点での急激な気泡膨張と、その後の気泡の振動が加工液中を伝播するとき、水の方が振動が減衰せずに伝わり易いことが分かった。これは、油の粘性が水よりも大きいからである。よって、水の方が加工液の流れによって放電プラズマが吹き飛ばされ易く、昇温した放電点が加工液にさらされて冷却され易い。従って、水の方が放電頻度を高くでき加工速度が大きいことを明らかにした。 次に、融点が高い工具鋼と、融点が低い亜鉛を陽極に使用し、放電点の分布を比較した。その結果、亜鉛の方が加工屑の発生量が多く、ひとつのパルスで複数個所で放電が生じる確率が高いことが分かった。これが亜鉛被覆ワイヤ電極の加工速度が大きい原因の一つである。 また、工具電極からの加工液の噴流、工具電極のジャンプ動作、加工間隙の外に設けたノズルからの加工液噴流などが、加工間隙の気泡や加工屑の排出に及ぼす影響や、放電位置の分布の均一性に及ぼす影響を調べ、安定な加工を行うための加工液供給条件について重要な知見を得た。 さらに、SiCを電解加工の陰極に用いて、円柱状の工具電極を回転した時と回転しない時とで加工現象の違いを比較した。その結果、回転した場合は陰極上で発生した水素気泡が遠心力の作用で回転中心に集まり合一するので、中心軸上で電解液が枯渇し易いことが分かった。そこで、陽極の炭素鋼の半径方向に沿った加工量の分布を調べ、中心軸上で加工量が少ない結果と比較し、回転が必ずしも加工精度の向上に効果があるとは限らないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
放電加工については、当初の計画であった水加工液と油加工液の加工特性の違いの原因を解明することができた。これは放電加工の分野では長い間、原因の解明が待ち望まれていた重要な成果である。また、ワイヤ放電加工において、亜鉛被覆ワイヤ電極の方が黄銅ワイヤよりも加工速度が大きい理由を解明することができた。これも、いくつかの理由が提唱されてきた中で、最も有望な原因を明らかにできたので価値の高い成果である。この学会発表は電気加工学会全国大会賞を受賞した。 放電電流波形や電圧波形と放電の安定性との相関を調べる研究は行えなかったが、その代わりに加工液の供給方法や工具電極のジャンプ動作が加工屑の排出を促進し、加工が安定する現象を観察することができた。条件によってはそれらの手段が放電位置の偏在を生じさせる場合があることを示すことができ、本研究でなければ得られない重要な知見が得られた。 さらに電解加工において、工具電極を回転させることによって中心軸上で電流が流れにくくなり、加工穴の中心に突起が生じ、加工精度が低下する原因を明らかにできた。工具電極の回転は加工精度を向上させる効果があるとの従来の通説が必ずしも正しくないことを示した点で、学会発表時に高く評価された。この研究も電気加工学会の全国大会賞を受賞している。
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今後の研究の推進方策 |
SiC単結晶だけではなく、Ga2O3単結晶や、ITOをコーティングしたガラス板などを用いて加工間隙を観察する。いずれの材料も金属に比較して導電率が低い。また、熱影響層では透明性を失う。Ga2O3はSiCよりも透過性がよく、波長分散も均一である。また、ITOは安価であるが、膜厚が薄いので、単発放電によって導電性膜が消失し、ガラス面が表面に現れる可能性がある。そこで、これらの導電性の透明電極を用いることによって、普通の金属と比べて放電現象や加工現象が異なる可能性がある。よって、透明体電極を用いて得られる知見の普遍性や限界についての基礎研究が必要である。 平成26年度に実施できなかった、放電電圧・電流波形と、放電現象との対応を研究し、加工中の放電状態のモニタリングを放電電圧・電流波形で行う場合の理論的な根拠を調べる。そして、適応制御の精度を向上させる。 また、ワイヤ放電加工機の加工槽の扉に透明な樹脂製の窓を取り付け、ワイヤ放電加工の加工間隙を接写可能にする。そして、放電パルス条件や加工液の噴流条件が、ワイヤ振動、放電位置、気泡の挙動に及ぼす影響を調べ、ワイヤ放電加工の加工速度と加工精度の向上のための方法を開発する。 一方、電解加工については、回転電極の中心から電解液を噴出させたときの加工現象を観察し、加工精度との関係を研究する。また、電解加工におけるトラブルの一つである放電の発生の原因を詳細に解明する。極間が水素の気泡で埋め尽くされ、電解液の占有体積の割合が減少すると放電が生じやすくなることを明らかにしたが、電解液濃度、ギャップ長、噴流流量などとの関係はいまだに明確ではない。そこで、放電の発生のタイミングと場所を観察し、原因を解明する。そして、放電の発生を防止するための方法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
透明体電極を用いた観察方法は、放電加工と電解加工の両方の現象の解明に有効であり、平成26年度までに放電加工の現象解明は十分な成果が得られた。しかし、それでも放電電圧・電流波形と加工の安定性の解明との関連を調べる研究や、ワイヤ放電加工現象の解明はこれからである。また、電解加工については観察装置が完成し、基本的な現象解明の観察に着手したところである。すでに多くの現象について新しい発見が得られたので、理論解析を並行して行い、より詳細に現象解明を進める必要がある。
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次年度使用額の使用計画 |
電解加工の現象解明のためにSiC単結晶ウェハを購入し、工具電極回転、電解液の噴流を行った状態での加工現象の解明を行う。また、加工間隙での熱流体解析を行い、観察結果と比較することによって、加工現象の解明を行う。また、電極温度の測定を行い、電極内の熱伝導解析と組み合わせて、加工間隙中の電解液温度や電極表面温度を求め、加工速度に及ぼす影響を考察する。
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