高精度ガラスモールド用の金型材料には、耐摩耗性、耐熱性、化学的安定性が要求されるため、CVD-SiCや焼結SiC等の高硬度難加工材料が用いられる。本研究では、電解質スラリー中における陽極酸化を援用した『陽極酸化援用研磨法』を新たに提案し、反応焼結SiC材に対する基礎実験を通した加工特性の評価により金型加工への適用可能性を探求した。陽極酸化援用研磨法は高硬度材料の表面を陽極酸化により改質することで軟質化し、母材よりも軟質な砥粒を用いて軟化改質層を除去することでスクラッチフリーかつ高能率に研磨する手法である。 本研究で加工対象とした反応焼結SiC材はSiC相とSi相の2相からなる材料である。薬液と砥粒の混合液であるスラリーを電解液として反応焼結SiC材の陽極酸化実験を行ったところ、SiC相は酸化によりSiO2に変化するのに対しSi相はほとんど酸化しないことがわかった。そこで、陽極酸化により酸化させたSiC相の除去レートと砥粒による研磨作用により直接除去するSi相の除去レートを等しくするための条件を、スラリー組成および研磨パッド形状をパラメータとして実験的に見出した。得られた最適研磨条件を用いて反応焼結SiC材の平滑化を行ったところ、研磨前後において表面粗さを2.25 nm rmsから0.95 nm rmsまで改善することに成功した。また、陰極ぼ面積とパッドの面積の比率を最適化したローカル修正研磨ヘッドを用いて滞留時間制御により反応焼結SiC材の平坦化加工を行ったところ、加工前後における平面からの最大形状誤差値に関しては808 nmから184 nmに、自乗平均粗さに関しては2.65 nmから0.98 nmまでそれぞれ改善し、反応焼結SiC材の形状修正及び平滑化が同時に行えることが示された。 本結果は、考案したプロセスが金型用の難加工材料に対する高精度・高能率加工法として極めて有用であることを意味し、金型加工技術を革新するものとして重要な意義がある。
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