本研究は0.1nmの深さ分解能を有する新しい計測手法を用いて、接触界面近傍の分子構造変化を1原子・分子層レベルでその場観察することにより、接触状態における物質の挙動を明らかにすることを目的とする。新手法は、表面プラズモンを制御する球面センサを測定対象面に接触させた際に、センサを透過した励起光の電界強度を試料界面近傍で増強させることにより、非常に強いラマン散乱光を発光させる。次に焦点を0.1nm毎に試料内部へ移動させ、そのスペクトル変化を解析することにより試料の構造変化を観察する。また液体潤滑膜における分子構造変化を同時観察・解析することにより接触・摩擦・潤滑のメカニズムを明らかにする。本研究では、サブナノメートル厚さの潤滑膜/極薄ダイアモンドライクカーボン(DLC)膜/Co合金磁性膜からなる極薄多層膜の化学構造の深さプロファイルを0.1nmの深さ分解能により測定し、表面からCo合金磁性膜界面までの構造が成膜方法によって変化することを明らかにした。また潤滑膜は官能基がDLC膜表面に吸着して固定層を形成しその上の流動層の2層構造になっていることをピークシフトの深さプロファイルから明らかにした。またCo磁性膜との界面またはDLC膜の表面近傍にはCo水酸化物が存在することを明らかにした。またDLC膜の内部には有機物が存在し、その量はCVD法が最も多く、FCVA法は少ないことが分かった。またプラズモンセンサの接触荷重とスペクトル強度の関係からAgとDLCのナノコンタクトの様子が推測できることを明らかにした。このように0.1nmの分解能で接触状態や潤滑膜、極薄薄膜の化学構造変化が分かることは、ナノトライボロジーにおける重要な知見をもたらし、その学術的な意義は極めて大きい。
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