研究課題
挑戦的萌芽研究
単心室症では,異常に形成された血栓が心房,心室や肺動脈で観察されることが多い.その理由は,血流の流体力学的な挙動が正常な心機能のそれと大きく異なるためと考えられるが,血栓形成と血流挙動との関係は明らかでない.本研究では,単心室症における血流の流体力学的挙動とその影響下における血栓形成現象を,計算力学シミュレーションを通じて明らかにし,さらに,血栓形成予測,薬効評価,および投薬の最適化を行う方法論の確立を目指す.今年度は,単心室症における血栓形成シミュレーションモデルの構築について,下記の項目を実施した.1.心臓大血管スケールの血栓形成について,血球成分より十分大きいスケールに対する血栓形成の現象論モデルについて,幾つかの種類を定式化し,二次元数値シミュレーションによってその特性を検証した.血栓形成の機序には,静脈血栓のそれを想定した.その結果,最大せん断速度とその持続時間を血栓形成の閾値として使うモデルが,血球スケールより十分大きいスケールの血栓形成を粒子法でシミュレートするために有用であることが分かった.2.単心室症における代表的な術式である心房・肺動脈連結法(APC 法)と大静脈・肺動脈連結法(TCPC 法)を対象とし,簡易な二次元血流路モデルを作成し,血流路形状の違いに応じた血流の流体力学的な挙動を調べた.さらに,血栓形成シミュレーションによって,血流の流体力学的挙動に応じた血栓形成挙動をシミュレートした.その結果,APC 法に比べると,TCPC 法では血流の停滞が少ないために血栓形成リスクが下がる可能性が示唆された.3.血栓形成で重要となる各血球の力学挙動を理解するために,実験と計算の両面から,白血球の能動的運動および赤血球の受動的運動のメカニズムを調べた.その結果,力学モデリングに必要な幾つかの物理特性とそれに応じた力学的振る舞いが明らかになった.
2: おおむね順調に進展している
当初の予定にしたがって,ほぼ順調に進んでいる.
今年度は以下の予定で行う.1.模擬血液を用いたin vitro血液灌流実験を,微小流路と落射蛍光顕微鏡システムを用いて行う.これにより,心臓大血管の形状を模擬した流路内部に模擬血液および蛍光粒子を灌流させて,流路内部における血栓様の凝集塊を時空間的に観察する.流速,レイノルズおよび流路形状を流れのパラメタとし,パラメタに依存した血栓様凝集塊の形成過程を示す.2.三次元流路形状を医用画像から,境界条件を全身循環マルチスケールモデルから,それぞれ作成し,単心室症の血流路における詳細な流れ挙動と,それに応じた血栓形成過程を明らかにする.得られた結果を臨床観察と比較して,モデルの現象記述能力を確認しながら,シミュレーションモデルとモデルパラメタの帰納的な同定を行う.3.血栓形成モデルにおいて,血栓様の凝集塊の内部結合強さは,ばね力によって決定される.この結合は,実際の血栓においても血球と凝固因子の間で存在し,なおかつ,抗血栓薬が結合を阻害することが知られている.そこで,抗血栓薬の濃度Cを数理モデルの変数として導入し,血栓モデルのばね定数を濃度Cの関数とすることで,血栓の極近傍で作用する薬効をモデル化して,その基本的特性を検証する.4.血栓形成で重要となる白血球の能動的運動および赤血球の受動的運動のメカニズムを明らかにするために,実験および計算の両面から検討を進める.
当該年度で支出予定であった実験装置関係の備品および消耗品が,別予算で支出となった.一方,旅費は当初予算より増額となった.その差引によって,次年度使用額が生じることとなった.当初予定より国外発表が1件増えたため,旅費に充当する予定である.
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 3件)
Biomechanics and Modeling in Mechanobiology
巻: 13 ページ: 735-746
doi:10.1007/s10237-013-0530-z
Heart and Vessels
巻: in press ページ: in press
10.1007/s00380-013-0381-7
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 438 ページ: 594-599
10.1016/j.bbrc.2013.08.010