近年,感圧塗料(PSP: Pressure Sensitive Paint)による気体流中の物体表面の圧力分布計測技術が大きな注目を集めている.PSPによる圧力計測法では,色素分子に光を照射した際に発せられるルミネッセンスが酸素分子との相互作用によって消光される原理を利用する.すなわち,色素分子の発光強度が酸素分圧によって変化することから圧力分布を計測することができる.PSPは,一般的に用いられている圧力孔による多点計測と異なり,塗布した物体表面での面計測が可能であり,また高空間分解能を達成できるため,基礎科学分野から工業製品の研究開発にわたる広い範囲への適用可能性を秘めているものの,これまで航空工学分野への応用に限られてきた.PSPは絶対圧センサーで,その計測域が数kPaから数気圧にわたるため,大気圧近傍の微小な圧力変化の計測は非常に難しく,民生品への応用は困難であった. 本研究では,PSP計測法にヘテロダイン検出法を適用することで,PSP計測における圧力分解能の向上を目指した.ヘテロダイン検出法では,励起光強度を強度変調させPSPを励起することにより,カメラで撮像される画像は,励起光の強度変調と圧力場の時間変動により変調されたPSP発光強度によって生じるうなり信号となる.ヘテロダイン検出ではこのほぼ一定の周波数のうなり信号を検出するために,他の周波数のノイズの影響を受けにくく高感度,高精度な計測が実現できる.また,計測対象となる圧力変動の周波数に対し,励起光の強度変調を適切に選択することによりうなり信号の周波数を小さくできるため,高感度高速度カメラが不要であるという利点もある.そして得られたうなり信号強度の時系列画像は,ロックインスキームに基づく単純な画像処理により周波数毎の圧力変動値へ変換することができる.この手法により,本研究では1 kHzで変動する圧力計測において圧力分解能50 Paを達成した.
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