研究課題
挑戦的萌芽研究
1K以下の極低温は物性研究においてきわめて重要な技術であり、簡便、安価、迅速な極低温物性測定法の開発が望まれている。本研究は、常磁性塩を用いた断熱消磁法による冷凍機、それを用いた超高速物性測定を目的としたものである。開発した技術を用いて、重い電子系物質を中心としたさまざまな試料の物性を測定し、新奇超伝導探索を行なう。本年度は、クロムミョウバンを磁気冷凍材料として断熱消磁ピルを多数作成した。クロムミョウバン自体は熱伝導がきわめて悪いので、ピル内でいかに熱接触をとるかがきわめて重要である。また、極低温ではカピッツァ抵抗により熱伝導の問題がさらに深刻になる。本年度作成した断熱消磁ピルは、内部に多数の金線を配置し、これを低温端に電気的に接続することでこの問題を克服した。低温物性測定システム(PPMS)での使用を前提とした小型の断熱消磁ピルであり、ピル内で温度勾配をつけながら下部から上部へ徐々に結晶が成長するように工夫を施した。得られた断熱消磁ピルをPPMSにセットして冷却テストを行なったところ、室温から100mK以下まで2時間以内に到達できる性能を確認した。これは、物性測定用の冷凍機としては世界記録である。多くの低温物性の研究者からこの技術についての問い合わせを受けており、現在、製品としての販売も検討している。これまで、100mK以下の低温を得るためには希釈冷凍機を用いて、数日から1週間程度の時間をかけて冷却していた実験が、この技術とPPMSを組み合わせることで2時間で到達できるので、低温物性実験に革命的な変化をもたらすものと期待している。なお、試作した断熱消磁冷凍機を用いて多数の純良単結晶の評価を行い、さまざまな実験を行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、まずクロムミョウバンを用いた断熱消磁ピルの製作と冷却テストを計画していた。設計、製作、冷却テストに関して、さまざまな試行錯誤を重ねた。製作の初期は、冷却時の熱膨張の違いによる磁気冷凍材料の漏洩など、多くの問題が明らかになったが、改良を重ねることで、完成度の高い断熱消磁ピルの製作に成功した。冷却テストによって、本来の目的にかなった実験ができることをわかり、今年度の研究計画はすべて達成することができた。
得られた断熱消磁ピルを用いて、今後さまざまな物性測定ができるように開発を続ける。電気抵抗測定については、ほぼ問題なくできることがわかったが、比熱やその他の物性測定についても同様の開発を続ける。極低温は、外部からの熱流入をいかに防ぐかがきわめて重要であり、そのためのフィルタ製作とその最適化も行なう。同時に、さまざまな重い電子系化合物を100mK以下の極低温まで物性測定することで、異方的超伝導を含む新奇量子相の探索を目指す。また、圧力セル、無冷媒冷凍機、小型超伝導マグネットを組み合わせながら、極限環境下の実験をすすめる。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件)
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