H26年度は過冷却下での気泡の発生に及ぼす主に溶存空気の影響についての検討を中心に行った.プール沸騰試験において溶存空気が入った状態(Open)と取り除いた状態(Close)を実現するために,ベローズと真空ポンプを装備した試験装置を作成した.得られた結論をまとめると以下の通りである. (1)Openの試験では,撥水斑点から負の過熱度で気泡が発生するのに対し,Closeの試験では正の過熱度から発生する.したがって,過冷却下で存在する蒸気膜は,蒸気と空気の混合物であることが結論付けられた. (2)沸騰開始から過熱度10Kまでの沸騰曲線は,OpenとCloseで異なり,Openの方が熱伝達率が大きい.すなわち溶存空気は沸騰初期において伝熱促進効果を有することが明らかとなった.過熱度10Kを超えると両者の沸騰曲線は一致し,溶存空気の影響は見られないが,気泡の大きさはOpenの方がCloseより大きい. (3)気泡内部の温度分布の計測により,気泡頂部の温度は大気圧の飽和温度よりも10K程度低い.気泡内部が水蒸気と空気の混合物であることから,空気の分圧分だけ水蒸気圧が低くなる.たとえば92.5℃の場合は水蒸気分圧は77kPa,空気分圧は24kPaと推算される.これは伝熱面の三相界線で空気を含んだ水が蒸発し,水蒸気は気泡上部で凝縮するが析出した空気が蓄積することによる.このため加熱面温度が大気圧飽和温度100℃より低くても,水蒸気分圧の飽和温度よりも高ければ蒸発は連続的に起こりえる訳であり,これが負の過熱度で長周期的に気泡が成長離脱するメカニズムと推定できる. 以上の結果は新たな知見であり,沸騰科学の進展に大いに貢献できたといえる.
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