細胞機能の詳細な解明を目的として,微粒子のブラウン運動や偏光特性等の物質の物理特性の環境依存性を利用して,細胞内(細胞質・核内)の局所的な物理的・生理的マルチパラメータ計測が可能なナノ・マイクロセンサを構築する.物理的なパラメータ計測には,カプセル型センサ内に封入した微粒子のブラウン運動検出や,シリコンナノワイヤの温度に対する偏光特性変化,カルシウムイオン等の生理的パラメータはカプセルに封入した蛍光色素を用いた蛍光環境計測を用いる. 今年度は,シリコンナノワイヤの偏光特性の温度依存性を用いたナノ温度センサの可能性について検証を行った.倒立顕微鏡に直径150 nm,長さ15 umのシリコンナノワイヤを水中に分散し,温度精度±0.3℃でコントロール可能な温度チャンバ内で,細胞実験に通常用いる室温から40℃までの範囲で温度較正を行った.偏光計測については,偏光計測用のカメラと偏光板を顕微鏡に設置することで計測環境を構築した.結果は,偏光角度には強い相関は得られなかったが,リターダンスに関しては,相関係数が0.94程度あり,EM-CCDと蛍光色素ローダミンBを用いて行った蛍光温度計測を同程度の感度・精度を得た.偏光特性を用いた計測は蛍光を用いた方式とことなり退色の影響がないため,長時間の計測に適することが確認できた.シリコンナノワイヤは無機物であるため,温度以外の環境条件(pH,酸素濃度,二酸化炭素濃度,カルシウムなどのイオン濃度)を受けないため,他の温度感受性を有する蛍光物質の補正用の温度センサとしても利用できる.将来的には,細胞内へ挿入したシリコンナノワイヤ内部の温度勾配を偏光情報から計測することで細胞の発熱量計測へ応用することが期待される.
|