研究課題/領域番号 |
25630104
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
安岡 康一 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (00272675)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プラズマ殺菌 / バイオフィルム / 緑膿菌 / オゾン / 過酸化水素 / ヒドロキシラジカル / 促進酸化 |
研究概要 |
本研究は,食品加工場,医薬品工場,医療や介護現場等の床面・壁面等に固着する菌の集合体であるバイオフィルムを対象に,その内部に存在する耐性菌類を完全滅菌して除去することを目標としている。バイオフィルムは生物膜あるいは菌膜とも言われ,固体表面に付着した微生物,または微生物が作る菌体外多糖などの生産物の集合体であり,成長の後期では強固となって容易には除去できない。このために,オゾンと過酸化水素から生成するヒドロキシラジカルを用いる2段階殺菌処理を新たに提案し,また周囲環境の湿潤空気や水膜を利用する自走型とすることで,無人環境でのバイオフィルム除去システムの完成を目的としている。 上記目的を達成するための研究内容は,プラズマ生成パラメータを最適制御してバイオフィルム内部の耐性菌を2段階の促進酸化処理で殺菌すること(A),およびこの手法を自走型システムに搭載すること(B)である。初年度は(A)について研究を開始した。 水蒸気,水滴等の発生装置を複数試験して,プラズマ生成空間の湿度を制御する方法を研究した。この結果霧状の水滴をバリア放電空間に通過させることで,気相で生成したオゾンガスを水滴と反応させ,オゾン水の生成に成功した。同様に気相で生成したヒドロキシラジカル同士を反応させて過酸化水素を作り,過酸化水素水として利用可能なことを実証した。さらに両者を組み合わせることでバイオフィルムが存在する湿潤面でヒドロキシラジカルを生成させる基本装置構成を確定した。また大腸菌,緑膿菌等を用いて,菌の培養条件とバイオフィルム生成条件を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2段階促進酸化ではプラズマによってオゾンと過酸化水素を別個に作り,両者を反応させてヒドロキシラジカルを作る。これを実際の使用環境で実現する条件として,大気圧空気プラズマにより2段階促進酸化を実現する手法を研究した。ガラス誘電体で囲まれた空間に微小水滴を含む空気を流し,バリア放電プラズマによってオゾンを生成すると同時に水滴に浸透させて,オゾン水として回収できることがわかった。またこのとき硝酸が微量含まれることを検出したが,水質基準以下であること,菌種によっては殺菌効果が期待できることを確認し,システム変更時には常に定量計測することとした。また微小水滴を含むバリア放電によって過酸化水素が生成されることを確認したため,2段階促進酸化に必要なプラズマ装置の基本構造を決定できた。 バイオフィルム形成条件については,大腸菌,緑膿菌,ブドウ球菌について培養条件を決定するとともに,バイオフィルムとして形成させる条件を検討した。この結果,温湿度条件や菌種による違いなど,菌の培養条件とバイオフィルムの形成条件には不明な点が残ること,またバイオフィルムの厚さ,表面状態と内部菌種の関係,固体表面への固着状態等の評価条件を確定するには,さらに検討が必要であることが判明した。このため,緑膿菌を主な培養対象として,溶液中に浮遊した状態で2段階促進酸化を適用する研究から,実施することにした。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに確立した微小水滴を含む大気圧バリア放電プラズマにより,オゾン水および過酸化水素水を生成する方式により,浮遊菌の殺菌実験から開始する。浮遊菌は大腸菌,緑膿菌とブドウ球菌とする。また,プラズマ由来の活性種の効果と硝酸の影響を把握するため,浮遊菌に過酸化水素水およびオゾン水を滴下して殺菌特性を明らかにした上で,プラズマ式2段階促進酸化実験を行い,比較検討する。このとき促進酸化によるD値(初期菌数を1/10にする時間)と殺菌に必要な消費エネルギーの定量評価を実施する。また,自走式システムに2段階促進酸化装置を組み入れ,浮遊菌を対象に殺菌実証試験を行う。 バイオフィルムの評価方法として薬液による染色を実施し,容易に識別する手法を確立する。さらにバイオフィルム内部の菌濃度についても評価方法を確立する。バイオフィルムを更に成長させ固体表面に固着した状態で,プラズマ条件,殺菌条件,またバイオフィルム表面の亀裂状況をパラメータとして最適な内部殺菌条件を見出し,2段階促進酸化方式によるバイオフィルム内部の殺菌を実現する。最後に自走式システムによる検証を経て目的を達成させる。
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