本研究では分子の有する多彩な機能(ナノスケールでのサイズ均一性、光応答性、スピン機能)を量子ドットとしてトンネル2重接合素子の中に組み込むことにより無機材料では実現できない新しい機能を持ったスピンメモリを開発することを目的としている。 平成26年度においては2端子構造においてトンネル2重結合を形成する技術の確立と分子軌道に依存する共鳴トンネル電流を磁場によって制御することを検討した。強磁性電極にコバルトおよびニッケルを用いることにより、原子層堆積法によって2 nm程度の平坦なアルミニウム酸化膜を形成することができた。分子を内包していない試料(Ni/Al2O3/Co)において磁場による抵抗効変化を観測した。また、従来まで確立している分子を壊すことなく、絶縁膜中に集積化する技術を組み合わせフラーレンや銅フタロシアニンを絶縁膜中に内包し、分子を量子ドットとして集積化したトンネル2重接合を形成することに成功し、電流‐電圧特性を測定したところ分子軌道を介した共鳴トンネル電流を観測した。この成果は、強磁性電極から注入されるキャリアを分子軌道によって制御できたことを示しており、本課題を実現するための重要な知見が得られた。しかしながら、強磁性電極から注入される偏極スピン電流を磁場によってスイッチングするまでには至っていない。今後の課題である。 さらに、分子スピンによる偏極スピン電流制御を実現するための第一段階としてMechanically controllable break junction法により単一有機ラジカル分子から分子スピン情報を検出することを検討した。非弾性トンネル分光法によって単一の有機ラジカル分子に起因する分子振動を観測することに成功した。今後、近藤効果や磁気抵抗効果を観測することを試み本素子中へ集積化することを目指す。
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