研究実績の概要 |
市販の高温超電導長尺線材を用いた各種応用の研究開発が進められているが、市販線材は幅数ミリのテープ形状であるため、テープ面に垂直な方向の磁界による交流損失が大きく、変圧器などの交流応用が阻まれている。また、遮蔽電流による誘起磁界の問題で、NMR, MRI など高い磁界精度が要求される機器への応用が困難である。本研究では希土類系超電導((RE)Ba2Cu3O7、略称 (RE)BCO)多芯細線を作製するための技術開発を行い、交流損失と遮蔽電流効果を大幅に低減させることを目的とする。 ニッケルなどの FCC 金属に圧延加工を施してテープ形状とし、充分な加工率を確保した上で再結晶熱処理を行えば立方体集合組織が得られることはよく知られており、その上にバッファ層・(RE)BCO層を蒸着することによって高温超電導線材が作製されている。本研究では、平成25年度に、ニッケルの圧延・引き抜き加工とその後の熱処理で、部分的に立方体集合組織が得られたニッケル平角線(幅 0.5 mm、厚さ 0.2 mm)を作製できた。平成26年度は、加工度をさらに上げることによって立方体集合組織の分率を向上させることを試みたがうまく行かなかった。EBSD 測定によって配向組織の状況を調べたところ、圧延方向に (100) 面が良く配向しているものの、平角面では (110) 配向した結晶粒が (100) 配向粒と同程度存在していることがわかった。このような表面へのバッファ層の作製を試みたところ、YSZ 単結晶基板上に CeO2(100) 配向膜が得られる条件でも CeO2(111) 配向膜しか得られず、その上への超電導膜の作製を断念した。なお、四角細線への成膜が容易なディップコートMOD法については、SrTiO3単結晶の角線(1×1×30mm3)上に約200 nm厚のYBCO薄膜をエピタキシャル成長させることに成功した。
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