本研究は大規模集積化が可能な断熱型QFP (AQFP) 回路を用いて、演算エネルギーの下限値(Landauerリミット)の検証を目指した。超伝導共振法に基づく微小エネルギー測定法を用いてAQFP回路の消費エネルギーを測定し、その下限値の解明を試みた。また、論理演算において情報エントロピー変化を伴わない可逆AQFP論理ゲートを新規提案し、Landauer リミットを破る論理演算の可能性を示すことを目標としている。 Landauerリミットの検証については、超伝導共振法に基づきAQFP 回路の演算エネルギーの評価を行った。まず1つのAQFP ゲートを高Q 超伝導共振器と結合させ、その外部Qを測定することでAQFP ゲートの演算エネルギーを見積もった。以上の測定により、AQFPゲートは10zJの演算エネルギーで動作することを示したが、これはLandauerリミットの約380倍に相当する。一方、多数の並列接続されたAQFPゲートの演算エネルギーを超伝導共振法により測定したが、演算エネルギーが微小であるため、実測には至っていない。 可逆論理ゲートについては、熱雑音を考慮した回路シミュレーションにより、AQFP バッファのビットエネルギーを評価した。これにより、AQFP ゲートのビットエネルギーはクロック周波数に比例して減少すること、アンダーダンプ接合の利用により演算エネルギーを従来の20分の1に低減できることを示した。一方、3つのAQFP 多数決回路で構成される可逆AQFPゲートを新規提案した。提案ゲートの動作を回路シミュレーションにより調べ、本ゲートが可逆回路として動作することを示した。回路のビットエネルギーを回路シミュレーションにより評価し、可逆AQFPゲートの消費エネルギーが入力の論理パターンによらず、低クロック周波数でLandauerリミット以下になることを示した。また、可逆AQFPゲートを試作し、本ゲートが論理的にも物理的にも双方向演算を行なえることを実証した。
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