研究実績の概要 |
スピン波は,さまざまな磁性薄膜で観察されているが,本研究で取り上げる磁気センサとして利用するためには,できるだけ長い距離を伝搬する減衰の小さな材料を選択する必要がある。そこで,本研究では,Co/Ni多層膜のスパッタ成膜の作製を行った。Co/Ni多層膜は,界面磁気異方性によって,垂直磁気異方性が誘導されるので,垂直磁化膜を得るためには,CoとNi の層厚を最適化する必要がある。CoとNiの層厚をパラメータとして磁気特性を評価したところ,Ni層厚:Co層厚の比が2.5:1で,周期1nmを10周期を積層した多層膜において,大きな垂直磁気異方性が誘導され,周期を1nmから,1,25nm,1.66nmへ増加させると,垂直異方性が低下し,1.66nmでは,面内磁化膜となることが分かった。また,Co/Ni多層膜の下地層として,TaとPtを用いた場合には,Pt下地の方が大きな垂直異方性が得られた。ついで,ここで作製したCo/Ni膜のGHz以上の高周波域のスピン挙動を調べるため,ポンプ・プローブ法によるスピンダイナミクス測定を行った。これは,膜面垂直から斜め方向に直流磁界を加え,極超短レーザパルスを照射したときに誘起される磁化スピンの歳差運動をポンプ光に対してわずかに遅れて照射するプローブ光によって,検出する測定法である。この方法で,Co/Ni膜のスピン挙動を測定したところ,20から40ピコ秒の周期で振動する信号が得られ,磁化スピンの歳差運動が,300ピコ秒以上に渡って,徐々に減衰することが分かった。歳差運動の周波数は,25から50 GHzで,これは,外部磁界の強度とともに増加すること,歳差運動の減衰に寄与するダンピング定数αが,0.02程度と,低い値を示すことが分かった。
|