研究概要 |
当該年度に得られた成果は以下のとおりである。 【導波管減衰定数の高精度測定】 鋳造による継ぎ目の無い, 壁面が金でできた長さ1インチ(25.4mm)および2インチ(50.8mm)の2本のWR-1.0導波管(断面形状規格254μm × 127μm)に対して, 300Kにおける0.75-1.1 THz帯の複素散乱行列をベクトルネットワークアナライザを用いて高精度に測定し減衰定数の周波数特性を求めた. この際, 産総研提案の校正キットおよび測定システムを採用し測定精度およびリピータビリティを確保した. 【表面抵抗の周波数特性の算出】 測定した減衰定数の値から表面抵抗の周波数特性を算出した. この際, 導波管形状をレーザ顕微鏡により実測することで分散特性を除去した. また,検波ダイオードの低ダイナミックレンジ周波数点と大気吸収周波数測定点を同定し除去することで測定精度を確保した. その結果, 0.75-1.1 THz帯において表面抵抗の結果は周波数の0.57-0.60に比例することがわかった. この値は, 古典的な表皮効果による金属の表面抵抗の理論値0.5よりは大きく, また, 異常表皮効果が支配的な場合の理論値の0.67よりは小さい値となった. このためこの周波数帯では古典的な表皮効果と異常表皮効果との遷移領域であると考えられる. 【ミリ波帯におけるスケーリング検証実験】 本測定手法の妥当性を確認するため, 古典的な表皮効果が支配的であると考えられる, 周波数が1桁小さいミリ波帯において同様な測定を行った. 得られたVバンド(60GHz帯)における表面抵抗の周波数特性の指数値は0.5となり古典表皮効果の理論値と一致した. これにより測定法の妥当性が検証された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していた, 導波管減衰定数の高精度測定, および表面抵抗の周波数特性の算出, の2項目に対して順調に研究が進み, 研究目標である0.75-1.1 THz帯における表面抵抗の周波数特性を初めて測定することが出来た. 得られた周波数特性は古典表皮効果によるものとは異なる結果が得られ, 異常表皮効果を初めて観測することに成功した. さらに, 当初の予定を前倒してミリ波帯におけるスケーリング検証実験にも着手し, 測定法の妥当性を検証することができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後, 次の計画で異常表皮効果の測定結果の検証と裏付けを行う. 銅製の1インチWR-1.0導波管を用いて同様な表面抵抗の周波数特性を測定し, 前年度の金の表面抵抗の周波数特性の結果と比較することで, 異常表皮効果の金属による依存性を実測する. 測定時には, システムの中間周波数帯域など測定システムの最適化を行いながら測定確度のさらなる向上を目指す. また, 金属の表面状態をレーザ顕微鏡, AFM等により観測把握し表面抵抗への影響を理論的にも調べる. なお, 測定系の改造等が可能であれば温度特性の測定を行い, 異常表皮効果の評価検証も行う. 以上, 得られた結果や知見は適宜論文としてまとめる.
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