研究課題/領域番号 |
25630162
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
天川 修平 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (40431994)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 分布定数回路 / fractional-order 回路素子 |
研究概要 |
特異な周波数特性やメモリー効果を示す「fractional-order 回路素子」が実験でいろいろ見出され,また理論面でも発展を見せている.しかし、潜在的有用性はさておき,これらは「回路素子」としては非常にイメージしにくい.本研究では、「fractional-order 回路と分布定数回路は同じ物の違う側面である」との仮説にもとづき,この種の回路素子にわかりやすい物理的描像を与え,回路理論における位置づけを明らかにすることを試みた.これは,「有限 vs 無限」「局所 vs 非局所」という観点からの回路理論の再検討と言い換えてもいい. 分布定数回路とは無限個の基本回路素子で構成される回路である.数学的には,fractional-order 回路素子の特性は,級数展開して表すことができる.このことは,fractional-order 回路素子が分布定数回路に包含されることを意味する.たとえば,fractional-order 回路素子には必ず損失があるが,その物理的な理由が従来はあまり明らかでなかったと思う.しかし,分布定数回路の一種であると考えることで,損失がある理由が直観的に理解できるようになった.このような取り組みにより,システム記述言語としての回路理論の表現力,そしてそれを利用した思考の自由度が増し,デバイスや種々のシステムのモデリングや新奇回路の発見・設計が容易になると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Fractional-order 回路素子(やその他の特異な回路素子)の特性は,数式的には無限級数や連分数で表すことができ,それが回路としては無限素子同士の接続関係で表現できるゆえ,分布定数回路が対応する. 集中定数回路を構成する回路素子数は有限であり,回路は大きさを持たない「点」のように考えてよい.しかし,分布定数回路では,回路中の信号伝搬速度と回路の大きさに関して電磁気学的(あるいは相対論的)考察が必要となる.ここがやりきれていないので,「やや遅れている」と判断した.また,これと関連して「ポート」に関して考え直す必要があると思われる.ポートとは,ある条件を満たす端子対で,集中定数回路理論でも分布定数回路理論でも使われているが,もともとは集中定数回路的な概念なので,分布定数回路で使うには注意が要る. 以上のような点について検討・整理したうえで成果を論文としてまとめ,発表したい.
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今後の研究の推進方策 |
●非整数階微積分の定義としてどれが適切か実験的に確かめる方法の考案 非整数階微積分の定義には複数あり,定義次第で微妙に違う結果が導き出される.非整数階微積分学の応用に関する論文では,特に明確な理由は示さずに適当な定義を採用して進めているものが多い.非整数階微積分を単なる数学的ツールとして利用するのであれば,都合に合わせて適当な定義を採用すればいい.だが,物理的な系の記述に用いるのであれば,どの定義を採用すべきかは,実験結果を見て決めるべきであろう.これに関しての実験から示唆を得るための方法を考案する. 想定している実験は,CMOS集積回路プロセスで作成した系の測定である.どのようにすれば測定にかけることができるかは,現時点では,はっきりとわかっていない.試作すべき回路は,たとえばフラクタル様構造とオペアンプを含むような回路ではないかと想像している.また,伝送線路やMOSFETの高周波応答がfractional-order 素子的であることを利用する手もあるかとは思う.いずれにせよ,最大のチャレンジは実験をすることというよりは実験のデザインである.実験のデザインをよりスムーズに進めるために,集積回路試作に代えて電磁界シミュレータを購入することも検討している.原子核物理学の実験で,実験結果を説明するのにある定義だとうまくいき,別の定義だとうまくいかないといった例があるので,参考にできるところがないか検討する.Fractional-order素子の特性は基本的にインピーダンス、すなわち周波数領域での応答に注目して議論されることが多いが、時間領域での測定の利用も検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
購入した計算サーバーの価格が当初予定していたものより安かったのと,出張が当初見込みよりも少なかったため,次年度使用額が生じた. 参考文献の購入や出張にあてる.
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