本研究では,まずfractional-order回路素子のわかりやすい物理的描像を検討した.分布定数回路とは無限個の基本回路素子で構成される回路である.fractional-order素子の特性は無限級数や無限連分数で表せるので,これは分布定数回路の一種である.この特性は,たとえばRC直列ブランチを多数並列接続した構造や,どんどん再帰的に枝分かれしていくRC構造でも再現できる.しかし,伝送線路のモデルのようにはしご状に回路素子が連なった回路で表現したほうが簡潔で,かつ非整数階微積分の非局所性のイメージともあう. ある種の無限回路の応答はフィードバック構成を使って表せることから,フィードバック回路の理論についても考察した.2-port回路を4-portのフィードバックネットワークに埋め込んだときに出来上がる回路の性質(利得,安定性)や設計の基本的な考え方を明らかにすることができた. 実験的にfractional-orderの応答を測定するための候補となる系として,CMOS集積回路上の伝送線路を当初より想定していた.しかし,CMOS伝送線路の測定は特にミリ波で非常に特異な周波数応答を示し,実際にそのような特性なのか正しく測定できていないのか,判断しかねるような報告が多かった.本研究では,試料設計を適切に行うことで,基本的に素直な特性が得られることを示すことができた. 非整数階微積分の定義は複数あり,回路応用上はどの定義が適切なのか実験的に検証できるのか検討した.基本的にラプラス領域では差は出ず,時間領域での(回路系の)実験はGruenwald-Letnikovの定義で説明されるものと現時点では考えている.しかしRiemannの定義がボーズ粒子系の実験をうまく説明し,Caputoの定義がフェルミ粒子系の実験をうまく説明するといった報告もあり,この分野はまだ謎が多い.
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