本研究では、周波数分割多重方式の古典通信用ハードウエアを活用した量子通信への拡張を目標に、アナログエレクトロニクスのディスクリート部品と正弦波電圧信号を利用してシミュレータを構築し、量子計算に特化した新規ハードウエアの実装(「安価」、「平易」、「即納」)と動作の検証を進めてきた。 平成27年度では、昨年度までの成果であるディスクリート部品を用いた制御NOTゲートならびに回転ゲートを基本構成ブロックとして多ビット化について検討した。その結果、チップ部品の点数にもまして実装作業の増加がスケーラブルではないため、物理リソースの観点から微細化・集積化・モジュール化が不可欠との結論に至った。これは周波数帯域をkHzからGHzへ拡張する方向性とも矛盾しない。 さらに周波数基底の概念を100THzの光領域にまで拡張することを試みた。光の振動数領域では直接周波数変調が困難であり、これに代わる方法として動的プログラマブル周波数変調方式を検討した。非線形結晶導波路を通過した光通信帯域の位相変調光電場に振幅変調の時間窓を設けたところ、フィルタおよび干渉計法を用いた方法にくらべて高効率の側波帯発生が可能なことがわかった。一方、周波数基底の特性を利用して単一光子ヘテロダインの可能性を探った。音響光学変調素子による周波数変調では同時に複数の側波帯が発生する。この効果を利用して周波数ビームスプリッタを構成、スクリーン不在の時間ドメイン上に明瞭度90%超の干渉フリンジを発生させることに成功した。さらに同技術の複合化を通じて、周波数ドメイン差動位相変調による2ビット量子鍵配送の原理の検証実験に成功した。この新しい通信プロトコルは、単一光子源や量子エンタングルメントなどを必要とせず、既存の波長(周波数)分割多重方式とも整合性が高い上にアナログエレクトロニクスへの即時転用の潜在的可能性を秘めている。
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