昨年度までの研究で、受光素子の光非線形効果を利用した『光非線形ヘテロダイン検波』の提案と原理確認を行った。提案手法は、広帯域にわたり、偏波無依存、かつ高分解能な分光が期待できる。昨年度の研究では、光非線形ヘテロダイン検波の原理確認を行うと共に、本手法が分光計測のみならず、長距離光ファイバ中の反射点計測を含む広ダイナミックレンジなレーザ測距へと応用可能なことを実証した。この成果は、英国物理学会(IOP)誌のIOP select論文に選出された。本年度は、昨年度の研究成果をもとに、広帯域にわたり光源波長を掃引し、受光素子の出力を逐次記録する自動制御系の構築に取り組み、分光計測の基礎検討を進めた。既知の分光特性を有するサンプルとして、光通信システムに用いられる光ファイバ回折格子の反射、透過特性を本提案手法により測定し、原理の有効性を確認した。平行して、レーザ測距への応用について、更に様々な手法への発展を行った。昨年度の手法では、局発光の位相については、特に制御を行わなかったが、位相を特定の波形で変調することにより、システム構成要素を減らしつつ、高精度で測距が可能なことに思い至り、実験によりその有効性を実証した。この手法では、実験により例えば数mの光ファイバの熱膨張による0.1mmの長さの変化も正確に測定することができた。こうした技術は、例えば気体、液体等にわずかな濃度変化があった際、それに伴う光路長変化を高精度に検出できることを意味し、そのような分光計測への応用が期待できる。
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