生物は,自身の身体が持つ膨大な自由度を巧みに協調させることにより,環境適応的かつ多様な振る舞いを生み出している.この発現機序の解明を目指して,これまでは歩行や這行といった特定のロコモーション様式を採り上げて議論がなされてきた.しかしながら,このような個別論的な考察が,さまざまなロコモーション様式に通底する発現機序の本質を捉えることを阻害していた可能性は否めない.そこで本研究では,「いかなるロコモーション様式であっても,行動主体の動きに伴って周囲の環境から返ってくる力覚情報,つまり「手応え」が推進に利するものかどうかを即座に峻別して,推進に利する手応えは積極的に活用する(以下,手応え制御と呼ぶ)」という,いわば原点回帰の作業仮説に立脚した. 最終年度は前年度に引き続き,一次元ひも状の身体を持つヘビ型の行動主体を採り上げ,手応え制御の実装方策を考察した.その結果,いくつかの数理モデルのアイデアを得た.このうち,曲率微分制御をベースとしたモデルの妥当性を検証するために,流体中で流体塊からの手応えを活用できるかどうかをシミュレーションした結果,力学的に妥当な運動パターンを生成することができた.このことは,陸ヘビと海ヘビの運動生成メカニズムに高い共通性があることを示唆しており,生物学的にも興味深い知見であると期待される.
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