研究課題
我々は,脳構成論の立場から,記憶の基本はループ回路であり,このような経路の探索・形成がHebb則に従う神経回路で可能であり,記憶銘記,連想,抽象化,記憶の再構成など脳情報処理の基本機能が,単純な経路形成のみで統一的に説明され,生理的・神経回路的に実現可能であると仮説を立てている.本研究の目的はこの仮説をシミュレーション並びに生理学的に実証することである.本研究と関連して、1昨年までは、まずマルチ電極を用いて培養神経細胞よりスパイク列を取り出した.これを解析し,M系列類が有意に多いことを示した.また特定の符号が、ネットワーク空間を伝搬していく符号分布図を作成した。さらにそれに対応する回路構成や,遠隔転送のfeasibilityを主としてシミュレーションを用いて調べた.しかしながら,この符号が何を示しているかは依然不明であり、従ってこれらは神経回路網原理の本質を十分ついているものではなかった.そこで,本年度は同期的2次元神経回路網と非同期的2次元メッシュ状神経回路網のシミュレーションにおいて,ともに多重通信が可能であることを示した.とくに後者においては,時空間刺激パターンは,スパイク波と名付ける波動として伝播し,別の部位にある受信神経では特定の時空間パターンに変換される(遠隔伝送).受信した神経は,その受信時空間パターンがどの刺激によるものか,識別できる(多重通信).これは素子としての神経細胞が記憶素子として働くとともに,遠隔部位への多重伝送の中継素子としても働くことが示された.
2: おおむね順調に進展している
【研究実績の概要】でも記した通り,我々は脳内通信機構の解明を神経回路ベースで進めており,脳情報処理の基本機能が,単純な経路形成のみで統一的に説明され,生理的・神経回路的に実現可能であることを示す研究を進めている.これらのシミュレーション的実証については,スパイクの時系列データの符号分布により、通信機能の自己組織化が物理的に実現可能であることが分かったが,その符号分布の発生原因については不明であった.本研究においては,その発生原因を追究すべく取り組んできたが,昨年度下半期にブレークスル―があり,それらの符号が神経回路網内で発生するスパイク波に由来することが解明できた.本年度はこのスパイク波モデルに基づき,学習アルゴリズムの解明等に取り組み、その成果を挙げることが出来た.
今後は、引き続きスパイク波モデルに基づき,シミュレーションにより通経路確立のメカニズムの解明等に取り組むとともに、培養神経細胞回路網によるスパイク伝播の解析をさらに推し進め、その生理学的実証にも取り組む.
他大学共同研究グループより、学会発表の旅費支援が得られたため、当研究費からの支出を抑えることができた。、
論文投稿、また培養細胞実験に伴う動物購入費用などに充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件)
グローバル経営学会誌
巻: 2 ページ: 51-56
J. of Comm. and Inf. Sci.
巻: 5 ページ: 12-24
Takuya Kamimura, Yoshi Nishitani, Yen-Wei Chen, Yasushi Yagi, and Shinichi Tamura, “Copy of neural loop circuits for memory and communication,” Journal of Communications and Information Sciences
巻: 4 ページ: 46-56