本研究課題は,振動工学の分野において,理論の体系化および計測技術が先行している音響工学に着目し,その知見,手法,エッセンスを積極的に取り入れて,コンクリート構造物の振動試験の高度化を図るものである.これまでの研究では,加振器を用いて,正弦波の周波数を徐々に上昇させるスイープ加振と,ホワイトノイズを一度に与えるランダム加振を検討し,構造諸元,加振条件,測定時間および測定精度を整理した. 平成27年度は,損傷同定の基礎検討として,模擬空隙,切欠き,断面欠損を与えたコンクリート供試体の振動試験を行い,空隙パターンと共振周波数の関係を整理した.また,RCはり供試体の静的載荷試験によって曲げひび割れやせん断ひび割れを導入し,ひび割れ性状と共振周波数の関係について整理した.これらの検討により,i)共振周波数の低下は,加振方向に投影した空隙面積に依存することや,ii)ひび割れ幅が0.05mm以上になるとコンクリート中の波動を遮断するため,空隙としてモデル化できることなどが示された.さらに,空隙長さが小さい場合には,空隙を回避する波動の最短経路で共振周波数が算定でき,空隙長さが大きい場合には,波の回折理論に従って,波長に占める空隙長さの割合が共振周波数の低下率と線形関係になることを見出した.そして,これらの知見に基づいて,共振周波数を指標とした空隙長さの評価式を提示した. 以上より,加振器を用いた振動試験によって部材の局所的な共振を励起し,共振周波数の測定(剛性評価)が可能になる.さらに共振周波数の低下率に着目して,コンクリート内部の空隙・ひび割れの範囲や,ひび割れの角度を推定できることを示した.本研究は,既存技術にない新たな点検・評価方法を投じるものであり,特に,目視点検が困難なコンクリート構造物の点検への活用が期待される.
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