研究課題/領域番号 |
25630204
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
杉井 俊夫 中部大学, 工学部, 教授 (90196709)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 不飽和土 / サクション / 毛管上昇 / ドレーン / 液状化対策 / 堤防 / キャピラリーバリア |
研究概要 |
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、河川堤防において不透水層地盤の堤防が崩壊する箇所がいくつか見つかり、柔らかい堤防基礎地盤のめり込み部に溜まった雨水等による飽和域(閉封飽和域)が原因として堤体内液状化が発生することが報告された。一般に、堤体内部からの排水工としてドレーン工があるが、高低差を利用した排水設備であり、排水するは滞留水の水位以下に設置する必要がある。そこで、動力源なしで堤体内の低い部分から高いところへの排水が可能な土の持つ毛管上昇を利用することにした。本研究は、毛管現象によるサクション(吸引圧)効果と繰り返しの性能について評価を行い、実用化に向けてポンプ材料の特性について検討を行った。 サクション効果を利用したソイルポンプは、堤体内の低いところから吸水するために毛管上昇の機能と、排水側で重力排水が期待される。そこで、U字型アクリル管に試料を詰めて、排水量を計測した。ポイントとして、堤体内から排水が終了した後、堤体に降雨や河川水が浸透することを想定して、①「ソイルポンプの再現性」、土粒子径による毛管上昇高や透水係数が異なるため、②「ソイルポンプの材料として適正」に着目して珪砂6号と珪砂8号を使用して室内実験を行った。 サイフォン実験の結果、吸水エネルギーとなる毛管圧と排水エネルギーとなる透水係数の適切なバランスが必要であることが考えられ、毛管上昇高、透水係数、排水効率(排水速度)の関係を、粒径と間隙比から半理論式で計算した毛管上昇高とTaylor式から計算した透水係数と実験値を使って調べたところ、最適な土質材料である組み合わせが判断できた。しかし、吸水する高さが高くなると透水性が低くなり、その特性は粒径と「嵩密度(乾燥密度)」によって決まるため、試料によって限定されることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、サクション型ソイルポンプの再現性をもとめるため、繰り返し18時間ずつ排水実験したところ、一旦、堤体から排水が終了しても再び水が溜まると排水が開始されることが得られた。また、繰り返し回数が多くなるほど、短時間当たりに処理できる排水量が増加する傾向が得られた。この結果から、ソイルポンプが稼働する初期含水比が高いほど、ポンプの性能が高くなることがわかり、初期飽和度が低いと吸引圧が大きくポンプ内での保水が重力排水能力を上回ることが推察された。また、ソイルポンプの材料として 珪砂6号と珪砂8号を使用したところ、粒子径が細かい珪砂8号よりも、珪砂6号の方が単位時間当たりの排水量が多いことが分かり、毛管上昇高だけでなく透水性も高いことが必要であることが明らかになり、とくに透水性の高い試料の効率性が高いことが得られた。 サクション効果を利用したソイルポンプの試行実験では、砂試料を熱収縮チューブで固め、U字型に形状にして実験を行っていたが、形状が一定にすることが困難であるため、試料の違いによる影響を調べることが難しい。そこで、アクリル製のU字管を特注することになった。排水量が時間とともに増加していくために、定常状態をつくり出すためにポンプの稼働を180時間、停止180時間とした計360時間(1サイクル)を繰り返して実施することにも時間を要するため、時間当たりの排水量を指標とすることに切り替えた。以上の結果は、学会等で研究発表を行っており、また建設技術フェアにおいて模型によるポンプの実証を行っている。以上の成果を含め、試験における定常状態の設定、間隙率の整合などの改善を行って予定通り実施しており、概ね進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
初年次の成果から、再現性の確認、初期飽和度の影響、毛管上昇高と透水性のバランスが明らかになった。これを受けて堤内の土質との関係、毛管上昇高と透水性のバランスが試料の選定要因となる。本サクション型ポンプは、毛管上昇高を利用した吸水部と重力排水を利用した排水部に分けられる。特に排水口外部での大気圧部の吸引圧がゼロ、ポンプ内部の吸引圧がマイナスでエネルギー勾配がその高低差(位置エネルギー差)よりも大きい場合、排水は抑制される。いわゆるキャピラリーバリアが発生するため、これを抑制することが必要であり、その解決法としてポンプの形状がカギとなることが考えられた。2年目は重力排水側の形状を鉛直から傾斜させることで大気圧と接触させ、空気と土中水の交換をはかることでキャピラリーバリアを発生させないようにしていくことを予定している。そのため、(1)数値実験を用いたポンプ形状の評価を試み、最も効率の良い形状について検討を行う。 また、堤内土質の保水性との関係である周辺堤体土の毛管上昇高が大きいとポンプの吸水能力に影響することが考えられ、一般的に用いられている堤防盛土の不飽和浸透特性で比較または、原位置での不飽和浸透特性を評価することで(2)堤体土に合わせたサクション型ポンプの試料選定について検討を実施、模型実験により検証も実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
土木学会中部支部での研究発表の場所が、岐阜大学と近かったこともあり、旅費使用が少なかったことがあげられる。 なお、次年度は65周年記念の地盤工学シンポジウムにも投稿を予定(長野市生涯学習センターで開催)であり、ここで旅費として使用したい。
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