護岸で波が大きく打ち上がり,風に押されて護岸背後の陸域に落下するタイプの越波の場合,護岸背後での単位面積当たりの越波量(越波流量でも同様)は空間的に分布を有する.この越波流量の空間分布特性を検討するには,造波風洞水路を用いた縮尺模型実験が有用な検討手段といえるが,越波流量の空間分布に強く影響する風速について,適切な相似則が存在しないため,定量的な検討が難しいという問題がある.そこで,本研究では,越波流量の空間分布の特性を把握すること,および,越波に対する風の影響について現地と模型での対応を明らかにすることを目的に,既往の現地観測結果を検討し,さらに水理模型実験を実施した.
平成26年度(最終年度)には,まず,既往の観測結果から越波流量の空間分布を越波流量の規模と風速で表す定式化を行った.越波流量の空間分布は基本的に指数関数形で近似され,その係数について越波流量と風速を説明変数として重回帰分析を行った.ついで,越波流量の空間分布に関する水理模型実験を行い,実験スケールでの空間分布について同様に定式化を行った.最後に,現地と模型実験における空間分布の式を比較することにより,越波に対する風速の影響について現地と模型との差異について検討した.
以上の検討の結果,護岸背後の越波流量の空間分布は,越波流量の規模と風速で決まることが示された.また, 空間分布を表す指数関数において,切片となる係数には越波流量そのものの寄与が大きく,風速は減少させるように作用する.一方,分布の勾配を表す係数には風速の影響が強い.さらに,現地と実験で得られた式を比較すると,現地と模型実験とで越波流量の空間分布に対する風速の影響の違いが明確に示され,これを考慮することで,縮尺模型を用いた水理模型実験において,越波を検討する際に設定すべき風速が得られることがわかった.
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