本研究は,東日本大震災時で都区内道路がグリッドロック状態にあった時々刻々のリンク速度を複数のデータを統合して再現する方法論を開発し,信頼性の高い道路速度データを作成するとともに,ドライバーの経路選択の行動原理を解明することを目的とする.具体的には,(課題1)道路速度をより正確に把握するために,複数の異なる交通観測データを統合し,5分毎のリンク速度のデータ整備すること,(課題2)このリンク速度データとプローブカーの走行経路情報を用いて,震災時のドライバーの経路選択の意思決定構造を解明する. 課題1は,タクシーと一般車の2種類のリンク速度データ,NAVITIMEの一般車点列データおよび日本道路交通情報センターの渋滞統計データを,デジタル道路地図(DRM)に統合した.各データのDRMリンクの時間帯別カバー率は,それぞれ概ね45%程度だったが,統合データによって,震災後の全時間帯で74%前後のDRMリンクカバー率を得ることができ,時空間でデータ密度を高めることに成功した.なお,渋滞統計データが10kph以下のリンクで,3種類のプローブデータが10kph以下を示すのは65%程度となることが判明した.これに加えて,異なる4種のリンク速度の平均値をベイズ更新を適用して算出した.渋滞統計データを事前分布,3種類のプローブデータを事後データとして,5分ピッチのリンク速度の平均値を算出した. 課題2は,NAVTIMEの点列データと課題1で算出したリンク速度データとを用いて,震災時と平常時のドライバーの経路選択モデルの構築を行った.モデルは,ODトリップ長を構造化したスケールパラメータつきのロジットモデルを用いた.この結果,尤度比は0.15前後でしかないが,経路上の渋滞発生回数や主要道路の利用率などのパラメータ感度が平常に比較して2倍から3倍程度の大きさとなった.経路上の渋滞によって経路を細かく変更する一方で,国道や都道などの認知しやすい経路を選択する傾向が強いことが判明した.
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