手で触れて、ヒトが知覚する形や感性を、脳血流の賦活状況などの測定を含めて評価する手法を開発し、高齢化が進む現代社会において使い手の立場から機能的でデザイン性の高いモノづくりに展開できる成果を上げることを目的とした本研究で、触覚が人間の認知や感性に与える影響を定量的に示した上で、ヒトが手で触れて知覚し、想像することの重要性を客観的に論じ、その成果が専門分野を超えた使い手の立場に立ったモノづくりに対して意義があることを明かした。具体的には、①段階的に形状と硬さを変えた物体を触覚と視覚情報から認知し評価する傾向を示した上で、②両感覚の把握特性が概ね比例する傾向を明かした。③しかし、造形特性の評価に対し、その物体の使い方や機能性、デザイン性、感性を含んだイメージをする量(想像量)は、視覚のみの8.89±0.55ポイントに対し、視覚と触覚で10.52±0.38ポイント、触覚のみで10.68±0.11ポイントと有意に高く、触覚情報が想像量に大きく影響していることを示した。④また、fNIRSを用いた脳血流測定においても、視覚と触覚情報から想像する場合に比べ、触覚のみの情報から想起する場合、大脳皮質の視覚野や聴覚野とは異なる前頭前野の賦活量が高くなる傾向を示し、⑤コンピュータグラフィックなどを用いた視覚のバーチャル化で、空間や造形デザインを仮想的に作成する技術開発が注目される中、ヒトが手で触れて使う実際の感覚が、ヒトの感性や想像力を高める可能性とその重要性を客観的かつ定量的に論じた。⑥さらにその重要性は、デザイン研究が先進的な北欧の事例をみても、ユーザー体験に注目したインタラクティブなデザイン開発が進む一方、視覚的な効果に比べ触覚を活かすコンテンツは、未だ注目されつつある段階である実態を把握した。よって、本研究成果が今後、幅広いデザイン開発の指標に成りうる意味でも意義があると云える。
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