本研究の全体構想は、「伝統的建造物群保存地区において、人が伝統的であると感じられるのに何を見ているのか、どのように見ているのか、通りに対する見方を明らかにし、通りが伝統的であると感じられるのに必要な景観のガイドラインを生理学的見地から見直すこと」にあった。 2013年度は、京都市の4伝統的建造物保存地区(産寧坂、祇園新橋、嵯峨鳥居本、上賀茂)における『通り』のデータベースの整備を行った。これらの地区において、全方位カメラ(Lady Bug2)で『通り』を撮影し、『通り』の映像データを獲得した。合わせて伝統的建造物の数や割合を記録し、『通り』のデータベースを準備した。 次に人が「伝統的である」と感じる『通り』に対して、注視点計測装置(アイマークレコーダー:EMR-8)を用いて、『通り』の何を見て「伝統的である」と感じているかを地区ごとに分析し、人が見ている空間要素を抽出し、伝統的建造物の要素を整理した。 2014年度は、引き続き前年度に整備した京都市の4伝統的建造物保存地区(産寧坂、祇園新橋、嵯峨鳥居本、上賀茂)の『通り』のデータベースを用いた。4地区における56視点の通りを対象に、前年度に整理した『通り』の空間要素を用いて、『通り』の空間要素の構成の特徴を自己組織化マップを用いて位置づける方法を考案した。 最後に『通り』に対する印象評価実験を組み合わせ、『通り』が「伝統的である」と感じられるか、それとも「伝統的ではない」と感じられるかを予測する方法を示した。加えて『通り』が「伝統的ではない」と感じられる場合に、『通り』の空間要素の構成をどのように変えるかを推測し、変更により評価が改善されることを検証した。 これらを本研究が目的とする「生理学に基づく伝統的建造物単体や伝統的建造物群に対するガイドライン」として纏めた。
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