研究課題/領域番号 |
25630258
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
土居 義岳 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (00227696)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フランス / ボルドー / 18世紀 / 都市整備 / トゥルニ / 地方長官 / 卸商人 |
研究概要 |
研究開始前(平成24年度)にすでに取得していた文献、アーカイブから予備研究をおこない、地方長官トゥルニの、官僚としての経歴、国務諮問評議会や赴任地ギエンヌ総徴税区における市参事会などとの関係、地方整備計画立案者としての立場を調べ、どのような制度と機構のなかでプロジェクトが展開されたかを明らかにした。さらにガロンヌ川沿岸における港湾施設整備と住宅地整備において、トゥルニが立案し、中央建築家ガブリエルに案の検討を依頼し、地元関連団体と折衝したプロセスを具体的に把握した。これら成果を日本建築学会大会(北海道)において口頭発表した。 平成25年9月、ボルドーに海外調査にでかけ、18世紀都市整備の現状を視察するとともに、アキテーヌ州とボルドー市のアーカイブで資料を検索した。その結果、住宅地開発の詳細な寸法が記されたプラン、土地売却やそれに関する訴訟などにかかわる資料を発見した。それら資料から、あらたに建設された土地建物を買い取った取得者のリストを作成したところ、有力の商人たちが名前を連ねていることを発見した。 そこでポール・ビュテル『ボルドーの有力家』(2008)やカヴィニャック『卸商人ジャン・ペレ』(1967)などいくつかの、地方誌、地方経済史の文献をあらためて調べ、主要不動産購買者たちの社会階層、国籍、宗教、婚姻関係などを明らかにする作業をはじめることができた。このあらたな知見により、中央官僚が起案した都市整備プロジェクトが、地方有力者たちによってどのように受け入れられたか、その過程が判明し、そのことで18世紀地方都市プロジェクトがもっていた政治的、社会的、経済的意味が理解されると思われる。さらにそれらをつうじて、ガブリエルなど宮廷建築家が果たしていた役割もより具体的にわかり、たんに宮廷建築家という栄光に奉仕するというステレオタイプを超えた、18世紀建築家像を明らかにできよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度計画、すなわち①ボルドー都市史の基礎的調査、②トゥルニの経歴についての予備研究、③現地調査(現地視察とアーカイブ調査)、④総合的分析、とくに同時期の他地域の都市整備との比較におけるボルドー市の特性の抽出、という四項目にたいし、それぞれ順調に研究計画を実行した。 ①ボルドー都市史の基礎的調査に関しては、20世紀に出版された都市史文献はほの取得している。調査旅行において、現地図書館や書店において、続々と出版される都市史・都市誌研究論文や文献についても、新しいものを入手できた。 ②トゥルニの経歴についての予備研究については、既往文献についてはすでにスタディ済みである。 ③現地調査(現地視察とアーカイブ調査)は夏期2週間おこない、建物平面図が添付された都市開発、住宅建設の書類、あるいは都市売買をめぐるトラブルにかんする訴訟記録など多様な資料を発見できた。その分析には時間はかかるものの、かなり詳しい分析が可能であろうとの確証をえた。 ④総合的分析については、ボルドーの都市経営をめぐって、地方長官トゥルニや、宮廷、高等法院や参事会などの地方勢力だけでなく、土地売買の書類を分析するなかで、地方有力商人の存在を発見できたことは今年度の大きな収穫であった。これら商人の挙動をひとつの軸にすることで都市整備の政治的、経済的、社会的意味が判明するからである。
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今後の研究の推進方策 |
18世紀都市整備プロジェクトにおける土地購買者の具体的諸相が判明し、かつそれにかんする先行研究や文献も少なくないことから、今後の方針を発展的に再整理する。 (1)まずガロンヌ川沿岸だけでなく、同様な住宅地開発を旧市街地をとりまく大通り沿道地区でもおこなっていること、それにかんする資料の存在も判明したことにより、その資料の状況にもよるが、これらをも調査地区に含めることを検討する。地区間の比較により、計画立案者が地区の特性をどう把握していたかが判明するであろう。また詳細な図面もあることから、それら住居プランの類型学的分析をとおして、いかなる都市空間イメージが構想されたかを調べる。 (2)主要な不動産購買者である有力商人家を、モノグラフ的に描き、その家の政治的、社会的、経済的、宗教的な動機を推察し、それらのなかで総合的に不動産売買がどのような意味をもっていたかを分析する。伝統的に西洋都市は、市政府の政策方向よりも、これら都市経済の立役者たちの活動に注目するほうが重要であるからである。このスタディのために、西洋史、経済史などの他分野における先行研究をさらに収集する。さらにボルドー大学と九州大学が研究交流協定を締結していることを活用して、現地研究者との交流をむすび、それをとうして知見を得る。 (3)ボルドー市都市整備を監修してきた国王建築家ガブリエル父子にひきつづき注目し、フランス学界における最近の研究成果などを調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
文献購入において、少し過去に出版されて絶版になっていたものは購入できなかった。すこし次年度使用学が生じたが、微額である。 文献購入においては出版年度を確認し、図書館からコピーを依頼するなどし、より計画的に執行することを心がける。
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