現在次世代の高強度鋼の開発が広く行われおり、特に引張強度で1.5GPa以上、破断伸びで20%以上の性能を示す鋼の開発が強く望まれている。この様な高強度鋼の開発には鋼組織中で最大強度を示すマルテンサイト相の活用が不可欠であり、DP鋼やTRIP鋼と言った第1世代の高強度鋼でも広く用いられてきた組織である。しかし、従来の組織制御の考え方では、マルテンサイト相は極めて高い強度を示すものの、その塑性変形能は皆無と考えられ、積極的にマルテンサイト相自体が持つ塑性変形能を活用するという発想はなく、材料本来の力学特性を十分に活用しきれてるとは言いがたい状況であった。そこで本研究では、マルテンサイト相自体が持つ塑性変形能の詳細を明らかにし、マルテンサイト相の塑性変形能を最大限に活用した次世代の高強度鋼の設計指針の構築に寄与することを目的とした。 初年度はマルテンサイト鋼とオーステナイト鋼を積層化した複層型鋼板を用いることで、マルテンサイト相に10-20%の一様ひずみを負荷し、マルテンサイト相の加工硬化特性を明らかにした。その結果、マルテンサイト相の加工硬化特性は固溶炭素の増加とともに大幅に上昇することを明らかにした。さらに、流動応力のひずみ速度依存性と透過型電子顕微鏡を用いた転位組織の解析から、固溶炭素量の増加に伴い転位セル組織の形成速度が低下することが、加工硬化特性の改善に寄与していることを明らかにした。 第2年度はこの様なマルテンサイト相の組織制御手法を検討するため、駆動力勾配下でのマルテンサイト相の形成過程のin-situ観察を行った。その結果、駆動力勾配下ではマルテンサイトは特定のバリアントが優先的に選択されることが明らかになり、集合組織の制御が可能であることが明らかになった。 以上の結果は、マルテンサイト相の塑性変形能を制御する上で重要な知見となると考えられる。
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