水素吸蔵能力が高い炭素材に粒子密度の高い水素ビームを照射すると、吸蔵した水素はエネルギー的に安定な捕獲サイトに捕獲される他、水素吸蔵合金の原子と極めて弱い結合力で材料中を拡散する過飽和水素となる。このような状態にある過飽和水素に対して超音波で定在波を発生させると、過飽和水素は定在波の振動エネルギー分布の影響を受ける可能性がある。本研究では、材料中における超音波定在波によって生じる粗密波の節部分が過飽和水素の拡散障壁となり、水素拡散の抑制効果につながるか検証する。 高粒子束密度ほど過飽和水素の生成が多くなるため、ヘリコンプラズマ源を制作した。ヘリコンプラズマ源では1E13~1E14個/(cm・cm・s)の粒子束密度が得られる。ヘリコンプラズマは通常パルス電源を用いて発生させるが、本研究では定常のヘリコンプラズマを発生させるため、φ50mmの石英管に13.56MHzの銅製2重巻線をアンテナとして配置した。石英管の表面温度は、風冷かつ600Wの条件で500℃程度と見込まれ、水冷方式を取り入れることでヘリコンプラズマ源の連続運転に目途がついた。Arガスの他、放電しにくいHeガスでもプラズマが定常的に発生することが確認され、H2ガスによる放電実験も可能と考えられる。 炭素材は6員環構造をもつ熱分解性黒鉛とし、水素ビームが6員環構造に水平、垂直方向に照射されるように配置する。過飽和水素の拡散は結晶構造に作用されるため、2種類の炭素材料を選定した。 パルス運転仕様の電磁超音波用電源を改善し、連続的に超音波が発生することを確認した。しかし、熱負荷が大きく、投入パワーの低減や冷却機構が必要であることがわかった。 本研究は概ね計画通り進行しており、プラズマ源と試料を真空装置内に設定し、実験を実施する際に生じる課題を対処して、昇温脱離法にて水素吸蔵量を検証する段階で事情により終了した。
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