本研究では、室温付近の低温で特異な延性を示すダクタイルイオン結晶に着目し、結晶変形時の特異な局所化学結合発現の観点から、その延性の起源解明に挑む。具体的には、ダクタイルイオン結晶であるAgClとSrTiO3を対象とし、第一原理計算を用いて、特定のすべり面・方向に対するパイエルス・ナバロ応力を算出する。さらに、すべり変形時の電子状態密度を詳細に解析し、すべり面近傍の局所化学結合状態の特徴を明らかにし、延性の起源を電子レベルで解明する。本研究により、イオン性を持つ脆性セラミックス材料への延性付与を目指した、電子論からの設計指針を得ることが期待できる。 本年度は、立方晶ペロブスカイト構造を持つSrTiO3に取り組んだ。前年度のAgClの場合と同様な手法により、Generalized Stacking Fault(GSF)エネルギーを第一原理から計算することを試みた。しかし、AgClのGSFエネルギー計算の際に用いていた真空層を含むスーパーセルで計算したところ、ペロブスカイト構造の大きな乱れが起こることがあった。SrTiO3は高温では立方晶構造をとるが、低温では正方晶となることが知られている。真空層を含むスーパーセルでは、すべりに伴う原子緩和の自由度が大きく、絶対零度での電子構造を求める第一原理計算では、この低温相への構造転移のしやすさが影響していると考えられる。これを回避するためには、真空層を含まないスーパーセルを用いることが重要と考えられる。また、転位コアの計算についても検討を行ったが、計算構造のスーパーセルサイズ依存性について、さらなる系統的な検討が必要であると考えられる。
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