研究課題/領域番号 |
25630287
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
谷口 尚 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (80354413)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ベルト型高圧装置 / 高温・高圧合成 / 超硬合金 / 圧力伝達物質 |
研究概要 |
本研究の目的は、物質・材料合成用のベルト型高圧発生装置の圧力発生領域を拡大し、新たな機能の発現、制御に向けた新物質・材料の合成環境の更なる拡張に挑むことにある。 ベルト型高圧発生装置の圧力発生限界はアンビルとシリンダー部材の破壊により支配される。シリンダーコアの破壊は加圧部分の試料長さとシリンダー内径を制御することにより回避が可能である。他方、アンビルの破壊は発生圧力の増大に伴い不可避となるが、アンビル直上にテーパー状の増圧板を配置することによりその破壊を回避できることが新たに見出された。この指導原理に基づいて、本研究課題申請時に室温下で17GPaまでの圧力発生が、高温度下では700℃,12GPa迄の圧力発生に成功した。H25年度は当該圧力・温度領域を実際の合成実験に供すると共に、増圧板の寸法、材質(超硬合金粒子の粒径、バインダー組成)の差異が及ぼす影響を明らかにした。 合成実験では、あらかじめ高圧合成した辺長1mm程度の六方晶窒化ホウ素(hBN)単結晶を塩化セシウム製圧力媒体に充填し、17GPa・室温~12GPa・800℃領域まで加圧し、ウルツ鉱型窒化ホウ素(wBN)に転換した。これまでhBNがwBNに相転換することは知られているが、wBNは準安定相であるために大型の結晶が得られた例はない。今回、比較的大型のhBN単結晶からの無拡散型の転換により自形を維持したwBN結晶が得られた。単結晶構造解析に耐えるほどの結晶子サイズは維持されず、多結晶体の様相を呈しているが、光物性評価によりwBN結晶のバンド端近傍の発光、光吸収特性を初めて明らかにした。 WC増圧板の特性は微粒系素材の特性が優れており、3回程度の再利用が可能であるが、圧力発生効率自体には大きな差違は見出されていない。増圧板の傾斜角は45°と60°の場合、後者では端面への応力集中により切り欠きが認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
温度と組成と共にもっとも基本的なパラメーターである圧力を制御することにより、物質合成環境の自由度が広がり、これまでに高密度物質・材料の創製や新たな機能発現などの展開がなされてきた。本研究の目的は、物質・材料合成用のベルト型高圧発生装置の圧力発生領域を拡大し、新たな機能の発現、制御に向けた新物質・材料の合成環境の更なる拡張に挑むことにある。 圧力領域の拡大により新物質の合成と評価を進めるとの観点では、ウルツ鉱型窒化ホウ素の結晶を15GPa・室温~12GPa・800℃領域で初めて合成し、その光物性を評価した点など、研究目的に即した進展が見られている。他方、15GPa領域での高温発生では加熱にと伴う応力緩和の制御は未踏であり、引き続き圧力伝達物質等を含めた加圧条件の最適化が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
15GPa領域での圧力発生は、増圧板の形状制御では応力緩和の制御には限りがある。シリンダー内径を大型化し、相対的に加熱領域を小さくすることで、高温度下での応力緩和を抑えることが期待できる。次年度は、この観点で圧力・温度発生に挑む。 12~15GPa領域における物質合成では、無拡散型転移によるwBN結晶合成の際、加圧中の偏差応力の影響により結晶の一部が多結晶体化してしまう。より静水圧性の高い加圧環境を獲得する上では、剪断強度の小さい圧力伝達物質の選定が重要であり、これにより、より良質なwBN結晶の合成に挑む。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度は高圧、高温度下での応力緩和条件を把握、検証するために実際の試料を用いた高圧合成実験(wBN合成)と超硬合金製贈圧板の形状、素材の効果を検証した。その結果、応力緩和を低減するためには加熱領域の相対的な縮小がより効果的であること、実効的な試料容積を確保する上では、より大口径のシリンダーを用いる必要があることが明らかとなった。そこで、H25年度の予算の一部を次年度に繰り越し、大型シリンダーを用いた高圧、高温実験を進めることとした。シリンダーの移行に際しては試料構成の最適化、精度確保のための治具作製等の時間が必要であり、各部材は現物の寸法に応じた制度の加工が必要であるため、実際に実験を進めるH26年度に消耗部材の購入資金を繰り越した。 大型口径のシリンダーに適合する試料構成を構築するために、前年度より繰り越した予算をその消耗部材の購入に充当する。 圧力・温度発生条件の最適化には単発の試行錯誤実験が必要であり、各部品加工精度の最適化を進めて、15-20GPa領域での高温発生を達成したい。
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